女子世界王者がV14の具志堅超えを果たせた理由
スピードが売り物の小関にとって、カウンターでKOは演出できても、自分から仕掛けて、そのシーンを創り出すことは、永遠の命題とも言える課題だった。しかも、イギリス人は、想像以上にタフだった。「必ず打ち返してくる。もう倒すのは無理かと思いかけた」。 7ラウンドには、小関はくびをつかまれると、ムエタイ流の一瞬の首投げでクルリとリングにひっくり返された。「ウワーって思った。これがムエタイだ!と」。だが、ここからが小関の開眼の証である。8ラウンド。小関は左を軸に挑戦者にロープを背負わせると猛ラッシュ。必ず打ち返してきたイギリス人は、ついに防戦一方となり、それを見た福地レフェリーが両手を広げてTKOを宣言した。「靴の紐がほどけたことをアピールして、手が止まっただけだわ」。 誇り高き元ムエタイ王者は、そうアピールしたが、左目の上には大きなたんこぶがでてきていて、右目には大きな青痰の跡。それは紛れもなく敗者の顔だった。「メンタルの強い挑戦者でした。勉強になりました」。 前回の試合で左拳を痛め、約2か月間、右手一本で練習をした。滅多にそんなことを志願してこない小関は、青木ジムの有吉会長に「右を教えて下さい」と言ってきた。数か月で右のノウハウを身に付けるほどボクシング技術の世界は甘くないが「一発一発強いパンチを打つ」という意識が身についた。試合1か月前に小関をインタビューしたとき、記録について聞き始めると、彼女は真剣な目をしてこんなことを言った。「勘違いかもしれませんが、強くなっている気がします。だから試合で試したいんです。ポジティブな勘違いでもいいでしょう? 記録や数字はもう意識しません。それより自分が強くなっていることが楽しくて」。 防衛を重ねるボクサーが負ける理由のひとつにモチベーションの欠如がある。だが、小関は、うまい具合に戦う理由をみつけていく。そして今回、勝たねばならぬ理由が、もうひとつあった。この4月にWBCの社会貢献事業の一環として、足立区のクリスマスビレッジという施設を慰問してボクシング教室を開き、子供たちと交流した。