時価総額9兆円に迫る「ドージコイン」を支える熱狂とコミュニティの力
「通貨」としてのドージコイン
しかし、マスクの関与には批判も付きまとった。2023年には投資家たちがマスクを訴え、彼による価格操作やインサイダー取引の疑いを主張した。しかし、この訴訟は先週、証拠不十分で棄却された。 ■「通貨」としてのドージコイン ドージコインは、技術力とコミュニティ、そしてセレブからの支持という三本柱を持つが、それだけで真の通貨になることは保証されない。通貨そのものには本質的な価値はなく、その価値は、交換手段や価値の保存手段として利用されるという、集団的な信頼によって生じるからだ。この信頼が多くの人々に共有され、コインが実際に使用されることで、通貨として機能する可能性が高まる。 この基準に照らせば、ビットコインはすでに「本物の通貨」の域に達している。ビットコインは、IntoTheBlockのデータによると週あたり約82万のユニークなアクティブアドレスを持ち、これにより十分な信頼と利用を獲得している。一方で、ドージコインはこの点で大きく遅れを取っており、週あたりのユニークアクティブアドレスはわずか8万にとどまっている。 さらに言うとドージコインはマスクという一人の人物に過度に依存しているというリスクも抱えている。マスクの支持はドージコインの知名度を高め、価格を押し上げた一方で、このような1人の人物に依存する状況は、長期的な安定性や信頼性を損なう可能性がある。マスクが支持を取り下げたり、評判が大きく損なわれたりすれば、ドージコイン全体に深刻な影響を与える可能性がある。 それでもなお、ドージコインは実際に通貨として使用されている。それはグローバルな通貨としてビットコインに匹敵する存在にはなり得ないかもしれないが、すでにコミュニティ通貨としてのニッチな地位を確立している。 ドージコインの今後の成功は、そのコミュニティがイーロン・マスクへの依存を減らし、単なるメディア主導のハイプを超えて進化できるかにかかっている。もしこれが達成できなければ、このコインはミームコインという域を出られず、短期的な投機家を引きつける以上の役割を果たせないだろう。 ドージコインがこれまで辿ってきた旅路は、特異でありながら注目に値するものだった。誕生から11年を経たこのコインは、もともとは暗号資産ブームを風刺するための風変わりな試みだったものが、ハイプの力を逆に利用して、本物のコミュニティ通貨へと進化した。この進化は、ハイプが必ずしも無価値ではないことを示しており、従来の金融が無視してきたカルチャーの力を浮き彫りにした。 この意味で、ドージコインは単なるミームコイン以上の存在であり、分散型コミュニティやネットのカルチャーが現代の金融に及ぼし得る影響を示すケーススタディとなっている。このコインがより広く普及するか、それともニッチなものにとどまるかはまだ不明だが、このコインはすでに集団的な信頼と行動のパワーを証明した。
Marie Poteriaieva