違いは「ツイン」テールライト フェラーリ250 GT ルッソ 娘が継いだプロトタイプ(2)
世界中から部品を取り寄せレストア
スティーブンへ向けて綴られた手紙にも、この事実は記されていた。フランスで短期間デモ車両として使用された後、パリ東部の農家、ギイ・ドメ氏へ売却されたと。 その後、複数のオーナーを経て、フランス中部のマンカ・ドリーナ氏が購入。フロントマスクに改造を加え、ピンク色に塗装し、1973年5月まで所有した。その後のオーナーはアメリカ人だったが、オランダ(ネザーランド)で保管していたらしい。 さらに、カリフォルニア州のフェラーリ・マニアへ転売。復活を考えていたが放置され、スティーブンが購入を決めた。当然のように彼は、歴史的な1台を復活させるため、レストアをスタートさせた。 オリジナルのエンジンブロックは残っていたものの、キャブレターやシリンダーヘッドは失われていた。リアアクスルやホイール、内装なども残っていなかった。トランスミッションは、別の250 GT ルッソ用のユニットだった。 いくつもの困難を乗り越え作業を続け、プロトタイプの1台は往年の輝きを取り戻した。形を変えていたボディのフロント部分は、正しい姿へ復元。V12エンジンはネザーランドのロェロフス・エンジニアリング社によってリビルドを受けた。 リアアクスルは、250 GTEのものを利用。それ以外も、スティーブンは自身が所有していたコレクション・アイテムの他、世界中から部品を取り寄せたそうだ。
60年以上が経過しても注目度は変わらず
作業はプーレから情報を得つつ進められたが、ダッシュボードだけは間違っていた。タコとスピードのメーターが運転席の正面に並ぶ、ショートホイールベース仕様が載っていたと彼は考えていた。だが当時の写真には、量産仕様と同じものが写っている。 レストアは2016年に完了。ところが、その頃からスティーブンは体調を崩してしまう。そこで、娘のスージーがシャシー番号4053GTの個体を受け継ぐことになった。 貴重な250 GT ルッソは、グレートブリテン島南部のティム・ダットンで開かれたクラシックカー・イベント、2024年レトロモビルへ出展。その後、フランスのパリ・エクスポ・ポルト・ド・ヴェルサイユでも展示され、90万人近い来場者の目を楽しませた。 発表から60年以上が経過しても、注目度の高さは変わらなかったようだ。スージーはスティーブンの娘として、多くのフェラーリ・マニアとの交流を深めることができたと振り返る。特別なクーペは、次の世代へ盤石に受け継がれたといえるだろう。
ジェームズ・ページ(執筆) マックス・エドレストン(撮影) 中嶋健治(翻訳)