川崎ブレイブサンダースが悲劇の大敗を乗り越え、進化するために──篠山竜青「もう一度原点に立ち返って」
うまくいかない時こそ問われる“真価”
ヘッドコーチもメンバーも大幅に入れ替わり、戦術も大きく変わった。年々ハイレベルになるBリーグにおいて、体制変更に踏み切ったクラブが1年で結果を残すことは難しい。ましてや、10年以上にわたってニック・ファジーカスという絶対的な軸を擁したクラブが変わるというのは、並大抵の作業ではない。 だが、ファジーカス加入前から川崎に所属する篠山竜青は、新たなメンバーと共に前を向き、進み続けている。ショッキングな負けにも、止まっているわけにはいかない。 「こういう負けは苦しいは苦しいです。見てくれている人たちにこういう思いをさせてしまったことに対して、危機感を感じなきゃいけないと思います。それ(うまくいっていない状況)を一気に好転させるのはすごく難しいことなので、そこは時間がかかる部分。けど、それ以前にディフェンスを途中でやめるとか、リバウンドで負けるとか、ルーズボールを追い切れないのは違うでしょ、と。(この試合でも、もっと)やれることはあったという部分は強調しないといけないと感じていたので、改めてみんなに共有しました。もっとシンプルに、頭をクリアにしてやれることをやることにフォーカスしなきゃいけないと、改めて今日の後半で感じました」 川崎加入1年目には、リーグ最下位というどん底も経験した。だが、そこからはい上がり頂点も極めた。今がどん底に近かったとしても、一つずつ課題をクリアしていくことで、成功をつかむことができると分かっている。だからこそ、チームメイトにはチャレンジを恐れず戦う姿勢を貫くことを強調する。 「とにかく今日言ったのは、もっと思い切りやってみよう、チャレンジしてみようというところです。勝たなきゃいけないとか、ミスしちゃいけないとか、頭で考えることが先になってしまうと体が付いてこないような状態に陥ってしまいます。なので、そこは強調しました。(川崎の選手たちは)良くも悪くも本当にみんなナイスガイなので、もっとコート上でズル賢く戦うことを覚えなければいけないところもあると思います。そこはたくさんコミュニケーションを取りながら、ちょっとずつステップアップしていければいいなと思っています」 「特に日本人選手は去年までなかなかプレータイムが伸びなかった選手たちが多いので、開幕してから少し経って、そういう選手たちがいろんなことを考え出してしまったかなと感じます。もっときれいにやらなきゃいけないとか、自分はここでシュート打っていいのだろうか、とか。そういう気持ちが出てきてしまうと、どんどんチームは崩れていくと思います。もう一度、原点に立ち返ってハードに思い切り良くやる部分を出していかなきゃいけないという話をしました」 この試合で注視すべきスタッツとして挙げられるのが、7-16に終わったオフェンスリバウンド、18-36と大きく溝を開けられたペイント内での得点、そしてターンオーバーからの17失点とセカンドチャンスでの19失点(群馬は順に3点と2点)だ。これらの中には篠山が言う気持ちの面で抑えられた得点がいくつもあった。 辻直人と細川一輝を中心とした群馬の3P攻勢は確かに見事だった。だが、その多くが取り切れるルーズボールを逃したり、リバウンドへの執念で上回られたりしたところから生まれたものであることを忘れてはならない。 篠山は言う。 「勝って楽しんでもらわないと次の試合にまた来てもらえるか分からないですし、チケットが売れなかったりスポンサーが離れてしまうと僕らは存続が危ぶまれる職種。そこに関しては選手たちとも話しましたけど、うまくいってないことももちろんあった上で、それでもやらなきゃいけないことはあります。調子が良くても悪くても遂行しないといけない部分をやらないと、給料ももらえなくなるんだという話はしました。ルーズボールやディフェンスは気持ちが一番と言われますけど、そういったところをもう一度見つめ直さなきゃいけない」 シビアだが、これがプロスポーツの宿命だ。だからこそ、篠山は言葉ではなく、プレーでファンに自分たちの存在価値を訴えかけたいと言う。ゲーム2も群馬に敗れたが、その点差は7点(68-75)。勝利とはいかないものの、バウンスバックはし終盤まで大接戦を演じてみせた。前述した4つのキースタッツも以下のように全てでリードを奪っている。 オフェンスリバウンド 川崎 16-10 群馬 ペイント内での得点 川崎 42-10 群馬 ターンオーバーからの失点 川崎 11-16 群馬 セカンドチャンスからの失点 川崎 9-11 群馬 「うまくいかないとき、バツが悪いときに本当の人間性が出る」。篠山が過去に語った言葉だ。 これはファンにもいえること。勝敗がくっきりと分かれるスポーツの世界だからこそ、負けが込めば不満も溜まるし、応援することをやるせなく思ってしまうこともあるだろう。本気で応援していればいるほど、そう思うものだ。 だが、苦しいときだからこそ、最も身近で見ているファンの支えが何よりも大切だ。時には叱咤激励をしながら、自分の愛したクラブをそれでも信じる。そんなファンが付いていてくれるクラブは必ずまた強くなる。そして、そのときは一緒に苦悩の日々を乗り越えた分、最高の顔で笑い合えるのだ。
文・写真/堀内涼(月刊バスケットボール)