新型コロナで「異例」の総裁談話 日銀の狙いを読み解く
日本銀行の黒田東彦(はるひこ)総裁は2日、新型コロナウイルスの感染拡大などによる株価が下落している状況を踏まえて、談話を発表しました。これにはどんな背景や狙いがあるのか。第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。 【画像】唐突な観測報道は、日銀の意図的なリーク? 物議を醸す「柔軟化」報道
FRB議長が緊急声明、利下げを示唆
目下の株価下落を受けて、日銀の黒田総裁は異例ともいえる緊急談話を発表しました。 やや唐突なタイミングに感じた方も多いかもしれませんが、これは先週の金曜日にFRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長が緊急声明を発表した、その流れを汲んだ措置と思われます。こうして考えると、ある意味当然のタイミングです。折しも日経平均が心理的節目の2万円に接近していたこともあり、「日銀として2万円割れは看過しない」とのメッセージを醸し出したかったのかもしれません。 先週の金曜日、パウエル議長はFRBのホームページにわずか5行の短い声明を掲載し、コロナウイルスの影響を注視する構えをみせ、声明文の最後を「景気を下支えするために適切に行動する(act as appropriate to support the economy)」として締めくくりました。この一言は、FRBと金融市場参加者の間でのみ通じる合言葉のような存在で、「FRBが近い将来に利下げを実施する」という含意がありますから、結果的にFRBが株価下支えに向けて動く意思表示をした格好となります。実際、その声明を受けて米国株は下げ幅を縮小しました。 FRBは3月17、18日のFOMC(連邦公開市場委員会)、あるいはそれを待たずして緊急会合を実施の上、政策金利の引き下げに動くでしょう。
注目は「金融市場調節や資産買入れ」
さて、ここで日銀はどう動くでしょうか。まずは、総裁談話の全文をみてみましょう。 「最近の内外金融資本市場では、新型コロナウイルス感染症の拡大により経済の先行きに対する不透明感が強まるもとで、不安定な動きが続いている。 日本銀行としては、今後の動向を注視しつつ、適切な金融市場調節や資産買入れの実施を通じて、潤沢な資金供給と金融市場の安定確保に努めていく方針である」 注目すべきは「金融市場調節や資産買入れの実施」の部分です。ここでいう金融市場調節とは金利コントロールや資金供給オペといった幅広い政策を指し、資産買入れとは長期国債、ETF(上場投資信託)、REIT(不動産投資信託)といった金融商品の買い入れを指します。額面通り受け止めれば、日銀がマイナス金利をさらに引き下げたり、ETFなど資産購入ペースを増額したりすることが予想されるわけです。