走り続ける脚本家・倉本聰82歳 ── 全力を尽くした者のみが知るやすらぎ
倉本は来春、今まで続けてきた芝居の総集編となる最後の作品「走る」の全国ツアーをやる。間もなく82歳になる倉本の走り方は半端でなく、仕事に関しては常に全力疾走なのだ。何故、82歳が若者以上に全力で走り続けているのか? その答えがある時見つかった。 倉本を訪ねて多くのお客さんが富良野に見える。その人たちの多くは「北の国から」など一連の倉本の作品や彼の生き方に共感を持つ人たちだ。そうした訪問者には著名な方も少なくない。そのうちの一人がサッカーワールドカップの岡田武史元監督。岡田さんは早稲田時代に地球環境問題に目覚め、日本の中でも環境問題に最も詳しい人の一人で、富良野自然塾のインストラクターでもある。 ある時、彼がテレビのインタビューに答えてこんなことを言っていた。「ワールドカップの時の私には試合に間違いなく勝つという自信はなかったが、勝つために自分がベストを尽くす自信はあった。勝つために私がやらなければならないことは全てやる自信はあった」。岡田さんのこの言葉を聞いて、「あれっ? 誰かと似てると思った。そうだ倉本と同じだ! そばで見ていると倉本はテレビでも舞台でも新聞や雑誌の連載でも、出番が大きかろうが小さかろうが全てに全力を尽くす。さらに、あれっ? と思った。これは倉本を訪ねてくる有名人たちに共通している。彼らはみんなやらなければならない仕事に全力を尽くしている。
時々富良野に遊びに見える日本ハムファイターズの栗山監督はチームが勝つために打つべき手は全て打つ人だ。だから日本シリーズで優勝できたと思う。 毎年、自然塾に来て木を植えていく落語家の立川志の輔さんもそうだ。今一番面白い噺家と言われている彼は高座で笑いを取るために全力を尽くす。信じられないほどのエネルギーと時間をかけて準備をする。 全力を尽くしている倉本をそばで見ていると「そんなに頑張ったら疲れるだろうに……」と思う。ところが、本人は疲れない。 今でも隙があれば手を抜きたいと思っている私のほうが疲れることが多い。ハタと気づいた。全力を尽くしている人たちは、全力を尽くしている間は間違いなく苦闘している。 悶え苦しんでいる。結論を出す締め切りの時が来て苦闘が終わる。負けても勝っても苦闘は終わる。勝つに越したことはないが、たとえ負けたとしても終わった後の爽やかさがあるのだ。仕事の終わった後の倉本の爽やかな表情を見ていてそう思う。間違いなく、全力を尽くした者のみが知るやすらぎがあるのだ。“苦闘の後のやすらぎ”これだ!これが次の仕事への原動力だ。 極限に挑み続ける倉本にとっては苦闘することが当たり前のことなのだ。「人間努力することが大事です」と教わって仕方なしに努力をしようとする私のような人間とは人種が違う。 倉本は、今日も、間もなく始まる「走る」の台本と苦闘しているに違いない。 (文・NPO法人 C・C・C 富良野自然塾 副塾長 林原 博光)