関節が柔らか過ぎる難病「エーラス・ダンロス症候群」、本当にレア? 誤診も多発
診断が下りないわけ
ジングマン氏の経験は例外的なものではない。早期診断が重要であるにもかかわらず、患者は通常、症状が現れてからエーラス・ダンロス症候群の診断が下るまで数年から数十年待つことになる。英国ウェールズで行われ、2019年に発表された研究では、診断まで平均14年かかることがわかっている。また、28年以上かかったケースも患者の4人に1人に上ると指摘している。 誤診もよくあるうえ、性差による影響もある。上記の研究では、男性の方が女性よりも平均8.5年早く診断されていることがわかっている。 多くの場合、関節の問題や痛み、疲労は、単なる始まりに過ぎない。エーラス・ダンロス症候群は、体位性頻脈症候群(POTS)、消化器疾患、睡眠障害、不安障害といったほかの病気を伴うことが多い。 ジングマン氏の場合、免疫系疾患があったせいで、エーラス・ダンロス症候群の診断がさらに難しくなった。ようやく関節過可動型との診断を受けたときにはホッとしたと氏は言う。診断が下りることで、それまで氏が経験し、歩行を困難にしてきた整形外科の手術や椎間板ヘルニア、骨盤の不安定性など、すべてのことに説明がついた。 「診断を受けたことで状況はすっかり変わりました」と氏は言う。「ようやく自分の症状は現実のものであり、体調を改善するために何らかの方法があるはずだと思えたのですから」
本当に珍しい病気なのか
自らサポートを求める行動と総合的な治療のおかげで、ジングマン氏は研修医を修了できた。そして、徐々に自身のリハビリを進める氏を見守っていた担当医から、エーラス・ダンロス症候群の治療を専門とする診療所を立ち上げるよう助言され、現在は米メリーランド州シルバースプリングの個人診療所で多くの患者の治療にあたっている。 ジングマン氏によると、エーラス・ダンロス症候群を管理するうえでは、けがの予防、医療提供者への教育、連携的な医療が重要だという。だが氏のように、この病気を専門とする医療提供者は少ない。また、人数は少ないながらも熱心な患者コミュニティーにとってさえ、この疾患は答えよりも疑問を生むことの方が多い。 一部の推定では5000人に1人が何らかの型のエーラス・ダンロス症候群を患っているとされるが、それでもまれな病気とみなされている(編注:日本では指定難病の一つ)。しかも先述の研究によれば、ウェールズの人口のうち500人に1人が、関節過可動型または似たような症状が出る「過剰運動スペクトラム症候群(HSD)」を患っているという。しかし、米非営利団体「エーラス・ダンロス症候群研究財団」は、「誤診が多い」ことから「実際の患者の割合はもっと高いと考えられる」としている。 また、根本的な対処法や治療法はなく、医療専門家の間でさえ認識が不足している場合もある。しかし、研究と意識の向上をとりまく状況は少しずつ変わりつつある。現在、国際非営利団体「エーラス・ダンロス協会」が患者中心のケアや習熟度などに関する厳格な基準を満たしていると認定した施設「センター・オブ・エクセレンス」は、7カ国で計18カ所にのぼる。また、研究が進むにつれて、患者のケアに熟達した医療提供者も増えつつある。 これは、患者と支援者による草の根的な活動がなければ成し遂げられないことだ。5万人強が参加するウェブ上のフォーラムから、病院や診療所で行われる対面でのグループ活動まで、ピアサポート(同様の立場にある人同士の支援)にはさまざまなものがある。そうした場では、長年にわたって診断も効果的な治療も受けられずにいた患者たちが、互いに医療提供者を紹介したり、共感や自身の経験を分かち合ったりすることができる。 しかし、ジングマン氏は、診断や治療、患者中心のケアに関する仕組み全体に変化がない限り、多くの患者の存在が把握されないままになるだろうと指摘する。 それでも、氏や同僚たち、診断を受けた多くの患者たちは、完全な治療法は存在しなくても、この病気とともに生きていくことも、対処することも可能だと話す。「患者は非常に実りある健康的な人生を送ることができます」と氏は言う。いつの日か、医学が患者の日常生活を改善し、豊かな生活を一歩ずつ取り戻すのを支えられるようになることを、氏は願っている。
文=ERIN BLAKEMORE/訳=北村京子