「真のロリータには精神が宿っている」青木美沙子 × 嶽本野ばらのロリータ談義
1980年代、原宿のストリートで産声を上げ、日本独自に発展してきたファッションスタイル、ロリータファッション。2004年には、深田恭子がロリータファッション命の女子高生を演じた映画「下妻物語」が公開され、一躍話題を集めた。しかし2010年代に入ると、「ケラ!(KERA)」やゴシック&ロリータバイブル(Gothic&Lolita Bible)」といった専門誌が相次いで休刊。「街からロリータが消えた」とも囁かれ、人気は一時下火となったように見られた。 【写真】嶽本野ばらと青木美沙子 しかし、令和6年を迎えた今でも、ロリータは確かに存在し続けている。今年3月にロリータブランド「ベイビー(BABY,THE STARS SHINE BRIGHT)」が渋谷ヒカリエで発表したショーには、約500人のロリータが来場。国内のみならず、海外からも多くのファンが駆けつけた。今や世界中で愛されるスタイルとなったロリータ。そんな今、平成から第一線で“ロリータ道”を突っ走ってきた2人は、何を思うのか。今年5月に劇場公開された、ロリータを題材とした映画「ハピネス」、そして7月に初のデジタル版としてリバイバル上映する「下妻物語」の原作者であり、数多くのロリータの支持を集める作家 嶽本野ばらと、「ケラ!(KERA)」の読者モデルを経て、ロリータモデルとして20年以上にわたって活動を続ける青木美沙子に、ロリータの今と昔、そしてこれからについて話を聞いた。
憧れだった「ミルク」原宿本店
──ロリータファッションといえば、まず最初に名前の挙がるお二人ですが、普段から親交はあるんですか? 嶽本野ばら(以下、嶽本):同じロリータ業界で長いこと発信しているけど、2人で一緒に仕事をする機会は今までほとんどなかったです。仲が悪いわけではないし連絡先も知っているけど、お互いのことを深くは知らなかったよね。 青木美沙子(以下、青木):私にとって野ばらさんは、憧れの人すぎて。気軽にお茶に誘ったりできないくらい、雲の上の存在です。電話で「ハピネス」の出演オファーをいただいたことをきっかけに、一緒に仕事をする機会が増えましたよね。 ■ハピネス:あらすじ 「わたしね、あと1週間で死んじゃうの――。」医師から余命1週間を宣告された高校生の由茉は、悲嘆にくれるよりも笑顔で“自分らしく生きたい”と願い、思い切って憧れのロリータデビューすることを決める。そんな彼女と、彼女を献身的に支えた恋人の雪夫の7日間を描く。 嶽本:「ハピネス」の映画化を本格始動するとなった時、ちょうど「イノセントワールド(Innocent World、ハピネスの主人公・由茉が心酔するロリータブランド)」が直営店をクローズしてオンライン販売のみに切り替えるというニュースが出たばかりで。でも、あの映画を撮るのにイノセントワールドの本店でのシーンは絶対に必要だったから、僕よりもずっと詳しい美沙子ちゃんにブランドの状況を聞くために連絡したのが始まりでした。「これから美沙子ちゃんの力をいろいろ借りちゃうかも。ついでに映画に出てくれたりしたら嬉しいな」って、監督でもなんでもないのに勝手に頼んでいた(笑)。 青木:映像化するとなったら、野ばらさんが小説で描いた世界観をいかに表現するかが肝だと思ったので、1000着近くのお洋服と、「ケラ!(KERA)」などの小物類も含めて、トラック1台分の私物を貸し出しました。ロリータファッションって、きちんと描かないとチープなものに見えかねないんです。ロリータを愛している子たちが見た時にきちんとロリータ愛が伝わる作品にしたかったから、できる限り協力しました。 嶽本:店内を撮影する場合、普通のお店の3割増しでお洋服を置かないと映像映えしないんですよね。例えば、普通なら一つのハンガーラックに20着かかっていれば良いけど、映像にするなら30着はないと、お店っぽく見えなかったりする。そこで「少ししか映らないし」と違うブランドのフリフリを使うことは、ロリータ道を全うしてきた身として絶対にしたくなかったから、美沙子ちゃんの力を借りました。 青木:一つでも違うブランドが混ざっていたら、ロリータちゃんは絶対に気が付きますもんね。それだけで「イノワの店内なはずなのになんで別のブランドが入ってるの?」「わかってない!」ってブーイングが起きちゃう(笑)。 ──青木さんがショップスタッフを演じたイノセントワールド本店のシーンでは、お店を前にした主人公が緊張でなかなかドアを開けられないシーンが印象的でした。お2人にもそんな経験はありますか? 嶽本:僕は、原宿の「ミルク(MILK)」の本店に初めて行った時、心臓が爆発するかと思うほどドキドキしたのをよく覚えている。京都の人間だから、原宿という土地にもドキドキしているのに、ミルクに入って大丈夫かなぁって。好きな芸能人に会う前のファンみたいな感覚で、入る前に何度もお店の前をウロウロして、ようやく意を決して入った。 青木:私も野ばらさんと同じで、ミルクに初めて行ったときのことを思い出しました。当時のミルクは小さな路面店で、めちゃくちゃ入りにくかったんですよね。「ラフォーレみたいにビルの中だったら入りやすいのに...!」と思っていた(笑)。「キューティー(CUTiE)」で吉川ひなのちゃんが着ているのを見て、お店に行ったのをよく覚えています。 嶽本:美沙子ちゃんはキューティー世代なんだね。 青木:キューティー、愛読してました。 嶽本:僕は「オリーブ(Olive)」世代だから、少しジェネレーションギャップがある気がする。昔、オリーブとキューティーは競合誌で、オリーブが衰退していく中で新興勢力のキューティーがどんどん追い上げていったんだよね。僕はオリーブの熱狂的な読者だったから、キューティーに対して少し憎たらしい思いがあって。美沙子ちゃんとは、同じロリータでも微妙なギャップがある気がしていたから、ルーツがキューティーと聞いて謎が解けた気がする(笑)。