23歳で早世した京大院生・山口雄也さん 自らドナーとなって支えた母親の無念と感謝
母親の造血幹細胞を移植
4年生になった翌2019年4月、白血病が再発する可能性が高いと告げられた。医師からは新しい治療法が確立するのを待つか、ハプロ移植というリスクはあるが効果を期待できる治療法を選ぶのかを提示された。 ハプロ移植とは、患者とHLA(白血球の型)が半分一致した血縁者にドナーとなってもらう移植法だ。親子間で半分一致となる確率は100%。また、半分一致は完全一致よりもがん細胞を攻撃する効果が高いが、患者の臓器を攻撃するGVHD(移植片対宿主病)は強く出る。 雄也さんと両親は、全国で最もハプロ移植の件数が多い兵庫医科大学病院に足を運ぶ。池亀和博医師(血液内科)から詳細な説明を聞き、ここでの移植を決断する。 両親への検査の結果、七美さんの方がドナーに適していることがわかった。 「雄也を治してやりたい、その一心でした。怖さはまったくなかったです」
七美さんには白血球を増やす薬が投与され、その後、血液中にある正常な造血幹細胞を分離装置で採取。6月3日、雄也さんに点滴で移植された。 この移植の前日、雄也さんは同じ白血病で治療中だった水泳の池江璃花子選手のツイートを見て、思わずリプライした。 〈明日、移植を行うことになりました。(中略)僕も闘ってきます〉 「移植にあたり、山口君に気負った様子はなく自然体だったと思います。ご両親が一生懸命サポートされる姿も印象に残っています」と池亀医師は振り返った。 七美さんからの移植は成功し8月に退院したものの、重度の肺炎を発症。さらに悪いことに本人の異常細胞が増加してきた。 「白血病の再発」「ここまでか」と最期を悟った雄也さんだったが、その後に奇跡が起こる。異常細胞が消えたのだ。池亀医師は、母親のリンパ球が肺炎に伴う炎症によって活性化し、一過性に異常細胞を駆逐したと推論した。 そのときの喜びを、雄也さんは著書『「がんになって良かった」と言いたい』にこう記している。 <母の細胞は、僕のがんを殺してくれていたのだ。それも全て残らず。僕は母に釣られて泣いてしまいそうになるのを、拳を握りしめてぐっと堪え、主治医の背中に深々と頭を下げた>