人生の「決断と責任」を避けている…ニートもひきこもりもフリーターも「モラトリアム状態」だと言えるワケ
日本は今、「人生100年」と言われる長寿国になりましたが、その百年間をずっと幸せに生きることは、必ずしも容易ではありません。人生には、さまざまな困難が待ち受けています。 【写真】じつはこんなに高い…「うつ」になる「65歳以上の高齢者」の「衝撃の割合」 『人はどう悩むのか』(講談社現代新書)では、各ライフステージに潜む悩みを年代ごとに解説しています。ふつうは時系列に沿って、生まれたときからスタートしますが、本書では逆に高齢者の側からたどっています。 本記事では、せっかくの人生を気分よく過ごすためにはどうすればよいのか、『人はどう悩むのか』(講談社現代新書)の内容を抜粋、編集して紹介します。
ニート・ひきこもり・フリーター
ニート(NEET)はNot in Education, Employment or Trainingの頭文字を取ったもので、学生でもなく働いてもいず、働くための訓練も受けていない人のことです(専業主婦や病気や障害で働けない人は除きます)。 ニートになる理由は、職場でのパワハラや過重労働、人間関係のストレスなどで仕事が続けられなくなったという同情すべきものから、単に働くのがいやというふざけたものまでさまざまです。共通しているのは、ニートになっても生活ができているということです。ひきこもりも同じで、働かなくても生きていける状態が、ニートやひきこもりを可能にしているひとつの背景でしょう。 ニートとひきこもりのちがいは、ニートは仕事や勉強をしていないだけで、それ以外はふつうに暮らしているのに対し、ひきこもりは家族以外と交流を持たず、コンビニでの買い物程度はできますが、基本的に外出せずに暮らしています。さらにニートは厚労省の定義では十五歳から三十四歳までという年齢制限がありますが、ひきこもりに年齢制限はありません。ニートに年齢制限があるのは、就学就労が可能な年齢なのに参加していないということで、三十五歳以上になると就学就労のチャンスがぐっと狭まり、ニートとさえ呼べなくなります。ニートの状態にある人は、手遅れにならないようこの厳しい現実を認識するべきでしょう。 私の知人の息子は、一流大学を卒業後、縁故入社で大企業に就職したものの、会社でイジメに遭い、出社できなくなって、以後、四十年以上ひきこもりになっています。カウンセリングを受けたり、専門医に相談したりと、いろいろ努力もしたようですが、現実を受け入れられず、過去の栄光(スポーツ万能で学生時代に注目された)が忘れられなかったり、家が裕福で生活に困らないことなどから、結局、立ち直ることができずに還暦をすぎてしまいました。 フリーターはアルバイトの形で仕事をしている人のことで、正規雇用になれずに致し方なくなっている人や、ほかにやりたいことがあって正規雇用を避けている人もいますが、正規雇用の窮屈さがいやでフリーターになっている人もいます。アルバイトやパートは責任も軽く、自由もききやすいのがメリットですが、不安定で多くの場合、病気や怪我のときの保障もなく、福利厚生も得られないというデメリットがあります。 ニートもひきこもりもフリーターも、人生の決断と責任を避けているという点で、モラトリアム状態であるといえます。 さらに連載記事<じつは「65歳以上高齢者」の「6~7人に一人」が「うつ」になっているという「衝撃的な事実」>では、高齢者がうつになりやすい理由と、その症状について詳しく解説しています。
久坂部 羊(医師・作家)