災害大国の日本 トイレ、キッチン、ベッド――避難所のTKBの改善が命を救う #災害に備える
「寝ていても、目を開けたらすぐ前を他人が歩いていてプライバシーなんてなかったです。また、お弁当は揚げ物ばかりで、野菜が不足していました。牛乳も飲めず、野菜や果物といった生ものも食べられないので、私を含め便秘で体調を悪くする女性が多かったです」 田中さんが避難所に滞在していたのは約1カ月半。小学校が休校になったことから、子どもたちの世話も必要になるなど、日々のストレスは高まる一方だった。
長期の生活で心身が疲弊
田中さんと同じ避難所に被災当初から入っていた菊池奈央子さん(44)は、避難所には一日を通して対応できる職員もいなかったと振り返る。 「当初は行政の対応も全く追いついておらず、物資も全然なかった。食事は一時的に近くの飲食店の方々が持ってきてくれていました」 状況の厳しさから、菊池さんは自身のSNSを活用して必要な物資を送ってもらうよう呼びかけるなど、ボランティア活動に奔走した。間もなく下着や生活用品などが送られてきて、避難所環境は改善した。菊池さんはその後、前出の田中さんと共に非営利団体「HEARTY DECO」を設立。被災者の自宅に食事を届けたり、子どもからお年寄りまでが交流する場を作ったりするなど、支援活動を継続している。 ただし、被災当初に感じた避難所の環境の悪さは、いまだに菊池さんの心にも残っているという。
そもそも現行の災害救助法では、避難所の開設期間は原則「7日以内」とされている。それは緊急避難的な意味合いが強いためだ。2019年の台風19号の際、長野市では54カ所の避難所に約6200人が避難した。このうち約5千人は発災翌日には帰宅。一方で、菊池さんのように元の家に戻れず、避難所生活が約2カ月間という長期に及んだ人も600人程度いた。 復興庁が2012年8月に出した「東日本大震災における震災関連死に関する報告」によると、同震災による災害関連死で原因を調査した1263人のうち、「避難所等における生活の肉体・精神的疲労」が一因とされる人が半数を超えた。死亡時期は発災から「1カ月以内」で約5割、「3カ月以内」が約8割となっていた。 避難所生活は高齢者ほど負担が大きく、長期化するほど心身の疲労が厳しくなっていることが示唆される。前出の菊池さんも、避難所で体調を崩した人をよく見かけたという。 「例えば腸捻転(腸閉塞症の一種)を患い、お粥など消化に良いものが必要な方にも揚げ物ばかりの弁当しかなくて、具合が悪くなって病院に運ばれたことがありました」 こうした反省から、長野県は避難所の環境改善に取り組んでいる。注力するキーワードとしたのが、T=「トイレ」、K=「キッチン(食事)」、B=「ベッド」の頭文字をとった『TKB』である。