【大人の熱海旅行】夕食は、地元民が絶大な信頼を寄せる鮮魚店の刺し盛りを
豊かな風土に彩られた日本には、独自の「地方カルチャー」が存在する。そんな“ローカルトレジャー”を、クリエイティブ・ディレクターの樺澤貴子が探す本連載。今回旅したのは相模湾を望む起伏に富んだ独特の景勝に惹かれ、多くの文人墨客が別荘を構えた熱海。相模湾の恵みをいただく。 【大人の熱海旅行】美食を求めイタリアン、大人のバーへ(写真)
《BUY》「魚久(うおきゅう)」 主客の笑顔が交わる山の上の魚売り
熱海を旅するならば、新鮮な魚を求めずにはいられない。そこでリサーチを進めると、前出の「テール・エ・メール」をはじめ、地元の住民や別荘ピープルから、絶大な信頼を集める鮮魚店があると聞く。それも漁港に近い海エリアではなく、伊豆山神社の膝下である高台に店を構えるとあって一層の興味が膨らむ。
訪れたのは1959年創業の「魚久」。ガラス戸から覗くと、店の中央には当日の朝に仕入れたばかりの鮮魚がひしめき、奥のショーケースには仕込みを終えた刺身やたたき、干物が満たされている。レジの付近に視線を移すと、バリエーション豊富な惣菜の数々が目に飛び込む。魚の唐揚げや南蛮漬けをはじめ、太巻きやちらし寿司、ひじき煮やキンピラといった暮らしに根差したラインナップに、食いしん坊のアンテナが反応する。「自分の住む街に、こんな店がほしい」という理想を絵に描いたようである。
「山の上という立地だからこそ、鮮度を大切にしている」と語るのは、2代目である父・高橋照幸さんとともに毎朝仕入れを行う3代目の一平さん。近隣の熱海市場に限らず、小田原の早川市場へも足を伸ばし、その日に一番美おいしいと思える魚を引いてくる。
手間と時間を惜しまずに二カ所の市場を巡るのは次の理由からだ。小田原は漁場の範囲も広く大型の漁船が行き交うため鯛や鯵など定番の魚が安定的に手に入る。いっぽうで熱海は小型船に乗る漁師が多いため、イスズミやボラ、サメなど珍しい魚種を網羅できるという。事前に予約をすれば刺し身の盛り合わせもオーダーできるため、旅の拠点をゲストハウスや貸別荘に置くならば、是非とも夕餉の一献の相棒に求めたい。
住所:静岡県熱海市伊豆山502 電話:0557-80-1343 BY TAKAKO KABASAWA 樺澤貴子(かばさわ・たかこ) クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークや、日本の手仕事を礎とした商品企画なども手掛ける。5年前にミラノの朝市で見つけた白シャツを今も愛用(写真)。旅先で美しいデザインや、美味しいモノを発見することに情熱を注ぐ。