元「私設空軍」持ち!? トランプ新政権の要人 米軍相手に戦闘機飛ばす驚愕の異次元マニアだった
民間版「ブルーインパルス」を創設して自らも操縦
しかし、アイザックマンの空への想いは、エアショー参加などでは満たされませんでした。エアショーチームで集まった元軍人らを活用して、より大きな空のプロジェクトへと突き進みます。それは、退役ジェット戦闘機を活用したビジネス、民間アグレッサー会社の創設でした。 2012年、アイザックマン氏は新たに「ドラケン・インターナショナル」(現ドラケン)を設立します。この会社の業務は、アメリカ空軍や海軍の戦闘機訓練において、自社が所有する戦闘機を飛ばして敵役や標的役を務めるというものです。 アメリカ空軍や航空自衛隊にも訓練で敵役を専門に務めるアグレッサー部隊というものがありますが、それらに近しいことを民間会社が代わりに行おうというものです。すなわち、国/軍の下請け会社という位置づけで、民間アグレッサー会社というような存在です。 同社はニュージーランド空軍が退役後に保管していたA-4K「スカイホーク」や、チェコ空軍が保管していたL-159E「ALCA」、スペイン空軍から退役したミラージュF1などを購入、再整備したうえで運用を開始します。結果、この業務は時代の波に乗り業績を拡大、今では約150機もの戦闘機を保有するまでになりました。 なお、アイザックマン氏は軍属パイロットとしての経験がないため、業務として軍の演習に参加することはできませんでしたが、同社が保有するA-4「スカイホーク」を使って、同機の操縦資格を取得しています。 ちなみに、アイザックマン氏は2019年に「ドラケン・インターナショナル」の保有株式をアメリカの投資グループに売却したため、現在では同社の経営と業務から離れています。しかし、それは空の世界に興味がなくなったというわけではなく、個人として自由に楽しむための方針転換だったようです。
個人で東西の傑作戦闘機を複数所有
「ドラケン・インターナショナル」の経営から離れたあと、アイザックマン氏のビジネスは本業のカード決算会社のみとなります。 しかし、プライベートとして空の世界を楽しむことは欠かさず、2020年にはロシア製戦闘機のMiG-29UB「ファルクラム」を自家用機として購入。この機体は元々マイクロソフトの創設者であるポール・アレン氏の財団が所有していたもので、アイザックマン氏は仕事の息抜きで週末に自分で飛ばして楽しんでいたとか。なお、今年(2024年)には北米のエアショーで、一般客を前に展示飛行も実施しています。 また、最近は新たな戦闘機として、イギリスとドイツが共同開発した「トーネード」戦闘機も購入しており、再飛行できるよう修復作業を目下進めているそうです。これが実現すれば、世界で唯一の自家用「トーネード」になります。 個人でジェット戦闘機まで飛ばすようになったアイザックマン氏は、その興味の対象を空からさらに上の宇宙に向けるようになります。 2021年9月16日にはスペースXと組んで「インスピレーション4」という有人宇宙飛行を行います。これは民間人のみで実施された初の宇宙飛行で、アイザックマン氏は4名のクルーの司令官という超重要ポジションで参加。その後、今年(2024年)9月には「ポラリス・プログラム」で、冒頭に紹介した民間人初の宇宙遊泳も達成しています。 アイザックマン氏の空や宇宙への関わりは、自身が実際に行うことを前提としており、それが彼のユニークな経歴につながっているともいえるでしょう。 来年から始まるトランプ政権において、アイザックマン氏がNASA長官としてどのように活躍するかはわからないものの、明らかに歴代の長官とは異なる経歴を持っていることは間違いありません。ゆえに今回の人選によるNASAの動向には、アメリカ国内でも大きな注目が集まっている模様です。
布留川 司(ルポライター・カメラマン)