ラブソングは間接的かつカジュアルに? いしわたり淳治が感じた時代の変化、キッチンのCMソングから考える
<Mini Column>気だるいお辞儀
年末が近づいてテレビで漫才を目にする機会が増えた。漫才師の皆さんはネタが終わるとお辞儀をする。本来お辞儀というのは相手に失礼のないよう、足をそろえ、背筋を伸ばして、腰から礼をするものだが、漫才師の皆さんは違う。足を少し開き、いかにも気だるそうに、背を丸めて、頭をひょいと前に倒す。皆がそうではないけれど、漫才ではどちらかというとこの気だるいタイプのお辞儀のほうがスタンダードのような感じがする。 お辞儀なんだからピシッとしたほうが良いかというと、こと漫才に関してはそういうものでもないような気がする。ついさっきまでふざけ散らかしていた人に、急にピシッと礼をして帰られたら、その方が冷めるというものである。「いやあ、なんか、こんなどうしようもないやつで、すんませんねえ」くらいの、だらしないお辞儀の方がしっくりくるというものである。ぼうっとネタ番組を見ながら、なるほど。皆がその人の芸風に似合ったお辞儀をして帰るのだなと思った。 今年の連載は今回で最後。皆さん、よいお年を。 ■著者プロフィール いしわたり淳治 作詞家・音楽プロデューサー 1997年にロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビューし、オリジナルアルバム7枚、シングル15枚を発表。そのすべての作詞を担当する。2005年のバンド解散後は、作詞家として、Superfly『愛をこめて花束を』、Little Glee Monster『世界はあなたに笑いかけている』、King&Prince『ツキヨミ』他、SMAP、関ジャニ∞、Hey!Say!JUMP、DISH//、矢沢永吉、石川さゆり、TOMMORROW X TOGETHER、EXO、NCT127、JUJU、中島美嘉、上白石萌音、まふまふなど、音楽プロデューサーとして、チャットモンチー、9mm Parabellum bullet、flumpool、ねごと、NICO Touches the Walls、GLIM SPANKY、BURNOUT SYNDROMESなど、ジャンルを問わず数多くのアーティストを手掛ける。現在までに700曲以上の楽曲制作に携わり、数々の映画、ドラマ、アニメの主題歌も制作している。2017年には映画『SING/シング』、2022年には『SING2』の日本語歌詞監修を行い、国内外から高い評価を得る。音楽活動のかたわら、映画・音楽雑誌等での執筆活動も行っている。 著書の短編小説集『うれしい悲鳴をあげてくれ』(筑摩書房)は20万部を刊行、ほかに「次の突き当りをまっすぐ」(筑摩書房)がある。本連載『いしわたり淳治のWORD HUNT』に掲載されたコラムをまとめた書籍『言葉にできない想いは本当にあるのか』(筑摩書房)を発売中。2021年からは新ユニットである「THE BLACKBAND」を結成し、そのメンバーとしても活動中。
朝日新聞社