空中分解したX線天文衛星「ひとみ」にも搭載 ミクロの世界の観測で日の目をみた「コンプトンカメラ」
英米を拠点とする宇宙に関するポータルサイト「SPACE.com」は、日本のX線天文衛星「ひとみ(ASTRO-H)」のガンマ線偏光観測装置を構成する主要装置のひとつである「コンプトンカメラ」が、原子観測に成功したことを伝えています。「ひとみ」が打ち上げ後約1か月で分解したために活動期間が非常に短かったガンマ線偏光観測装置ですが、原子核分光という異なる分野で日の目を見たようです。 今日の宇宙画像
■1か月で運用を断念したX線天文衛星「ひとみ」
理化学研究所などの研究グループが実験に活用したコンプトンカメラは、かつて宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所が中心となって開発したX線天文衛星「ひとみ」に搭載されていたものを応用した装置です。「ひとみ」は2016年2月17日に種子島宇宙センターから「H-IIA」ロケット30号機によって打ち上げられましたが、同年3月26日に通信が途絶。JAXAは同年4月28日に「ひとみ」の運用を断念しました。 「ひとみ」の目的のひとつは、数十keV~数十MeVとガンマ線のなかではエネルギーの小さい「軟ガンマ線」の偏光を観測することでした。軟ガンマ線は超新星爆発やブラックホールといった天体・現象から放射される電磁波で、磁場などが原因で偏光して地球に届きます。このため、軟ガンマ線の偏光データは放射源となる天体や現象の周辺における磁場構造を知るのに有力な情報となりうるものの、高い精度で観測する装置は存在しなかったといいます。
「ひとみ」に搭載された軟ガンマ線検出器(SGD)の検出部は、シリコン(Si)半導体の検出器とテルル化カドミウム(CdTe)半導体の検出器からなるコンプトンカメラです。コンプトンカメラとは放射線が物質内の電子に衝突すると散乱する「コンプトン散乱」を応用したカメラのことです。「ひとみ」に搭載されたコンプトンカメラは、Si半導体検出器でコンプトン散乱させたガンマ線をCdTe半導体検出器で吸収する仕組みを採用していました。ガンマ線が散乱・吸収された位置の情報と、2つの検出器で損失したエネルギーをもとにガンマ線が飛来した方向を逆算し、放射源の天体を撮像できるのだといいます。 このコンプトンカメラは位置分解能とエネルギー分解能の高さから、ガンマ線の偏光度計としても機能するといいます。「ひとみ」の運用期間は1か月強という短い期間ながらも、シンクロトロン放射(※1)で高い偏光度をもつ「かに星雲」の観測データを取得しています。 ※1…磁場の中をらせん運動する荷電粒子から放射される電磁波のこと