空中分解したX線天文衛星「ひとみ」にも搭載 ミクロの世界の観測で日の目をみた「コンプトンカメラ」
■期待以上に成功した原子核のガンマ線偏光観測
今回、研究グループは「ひとみ」に活用されたCdTe半導体を多層に重ね合わせたコンプトンカメラを用い、原子核から放出されるガンマ線の偏光を捉え、原子核の内部構造を明らかにできることを示しました。 原子核を構成する陽子や中性子の数は、「魔法数」と呼ばれる特定の数のときに安定すると考えられてきました。しかし、陽子数あるいは中性子数が安定状態よりも過剰で不安定な原子核では、魔法数が消失して新たな魔法数が出現することが明らかになっていました。 そこで、励起状態(※2)にある原子核が安定化する際に放出されるガンマ線の偏光を測定することで、原子核の状態を決定する実験が試みられてきたものの、従来のゲルマニウム(Ge)半導体検出器ではガンマ線の散乱角の分布を詳細にとらえられず、感度と検出効率のバランスを取るのが困難だったといいます。 ※2…基底状態にある原子核よりも高いエネルギーで安定した状態にあること。基底状態に遷移する際にガンマ線を放出する
そのため、研究グループはコンプトン散乱したガンマ線の検出器として、CdTe半導体を多層に重ね合わせた装置を多層半導体コンプトンカメラとして活用しました。同研究グループによると、CdTe半導体検出器の位置分解能と検出効率の高さにより、多層半導体コンプトンカメラは不安定な原子核からのガンマ線の偏光を測定するのに理想的だといいます。 実験の結果、研究グループは鉄56(56Fe)の原子核から放出されたガンマ線の遷移の特徴を捉えただけでなく、偏光度が過去の測定結果と一貫するなど、コンプトンカメラの性能の高さを証明しました。 研究メンバーのひとりである東京大学の高橋忠幸教授によるSPACE.comへの回答によると、原子核から放出されるガンマ線の偏光度測定に「ひとみ」で運用した多層半導体コンプトンカメラを利用できると予想はしていたものの、その性能は期待を上回るものだったといいます。そのため、宇宙観測用のコンプトンカメラを今回のような光子(電磁波)の直線偏光の測定に役立てられる可能性があると同氏は期待を寄せています。 Source SPACE.com - Deep-space astronomy sensor peers into the heart of an atom 理化学研究所 - 最先端宇宙観測技術で視る原子核の姿 東京大学 - 次世代ガンマ線天文学のための Si/CdTe半導体コンプトンカメラの実証的研究 JAXA - 「超広角コンプトンカメラ」による放射性物質の可視化に向けた実証試験 JAXA - ガンマ線偏光の検出を目的としたSi/CdTe 半導体コンプトン望遠鏡の性能評価 JAXA - 自然が物理学の願いをかなえるとき 高田淳史, 谷森達 - SMILEによるMeVガンマ線天体探査 渡辺伸 - 「ひとみ」衛星搭載軟ガンマ線検出器の実現 Go et al. - Demonstration of nuclear gamma-ray polarimetry based on a multi-layer CdTe Compton camera
Misato Kadono / sorae編集部