ホスピス医が語る「人生最後の日」に人が望むもの、「この世を去る」前に気持ちの変化が訪れる
人間にとって、人生最後の日が近づくというのは究極の苦しみかもしれません。ですが、人は「死」を前にすると必ず自分の人生を振り返り、その中であらためて「自分にとって本当に大切なもの」を見つけ、「生きる意味」を自らの力で生み出していくことができると、医師の小澤竹俊氏は語ります。 ホスピス医として4000人を看取ってきた小澤氏が振り返る、これまで出会った患者さんたちの「最後の日」とは。 ※本稿は、小澤氏の著書『新版 今日が人生最後の日だと思って生きなさい』から、一部を抜粋・編集してお届けします。
■死を前にした親が子に望むのは「人格」と「人望」 私がこれまでに看取りに関わった患者さんの中には、幼いお子さんを残していかれる方も、たくさんいらっしゃいました。 そうした方々の多くは、決してお子さんに「地位や名誉を手にしなさい」「お金をたくさん稼ぎなさい」などとは言いません。 女親であれ男親であれ、会社員であれ経営者であれ、みな「勉強はそこそこでもいいから、人に愛されてほしい」「周りの人と支え合って生きていってほしい」と望むのです。
たとえば、私が受け持っていたある会社の社長さんは、がむしゃらに働いて、一代で会社を大きくしました。彼は人を信頼するのが苦手で、どんな仕事でも最終決定は自分で下していたため、常に多忙でした。 もちろん、家庭や自分の健康を顧みることもなく、がんが発見されたときには、病状はかなり進行していました。体力は急激に衰え、当然のことながら、出社どころではありません。ワンマンだったため、社員との関係もうまくいっておらず、がんであることがわかったとたん、部下や取引先は潮が引くように離れていきました。
その患者さんは、「自分の人生は、いったい何だったんだろう」「自分の生き方は正しかったのだろうか」と考えるようになり、私にこう言いました。 「私は心のどこかで、自分はみんなから好かれている、信頼されていると思っていました。でもそれは、おごりでした。みんなが信頼していたのは私ではなく、私が動かしている仕事やお金、それだけだったのです。あれだけ飲んで食べて語り合って、わかり合えるところがあると思っていましたが……。こんなに寂しいことはないですね」