「もはやM&Aしかない」創業120年以上の印刷会社、後継ぎはいないと思っていた しかし、思わぬ人物が「一緒にやりたい」
◆想定外だった長男の言葉
――しかし、思わぬ承継者が現れたんですね。 M&A業者から、「会社の売却について、まずは家族に話しておくべき」と言われ、正月に子ども3人が集まっているときに、「いずれ会社を売るつもりだ」と話しました。 それから1年近く経ったころ、長男が「ちょっと、うちの会社のことを教えてほしい」と言われたんです。 そこで、決算書を読ませたり、いろいろと質問に答えたりしました。 すると、4年前の2020年、長男が「一緒にやりたい」と言ってきました。 私の妻はずいぶん反対していたようです。 当然だと思います。 京セラのような給料はとても出せません。 しかし長男は「もし一緒にやらせてくれなくても、今の会社は辞める、コンサル会社にでも就職する」と言う。 それならばと、2021年から営業部長として採用しました。 ――「一緒にやりたい」と言われたときの気持ちは? 「これほどラッキーなことはないな」と思った気持ちが70%くらい。 M&Aをして会社を現金化すればそれで終わりですが、長男に承継すれば、少なくともあと30年ほどは会社が続きます。 一方で、長男にも子どもがいますし、もしうまくいかなかったら大変なので、「気が重いな」というのが30%くらいありました。 30年続く会社にするためには、今、私ができることはもう少し手伝っておかないといけないので。 でも「ほんまに幸せなこと」と周囲には言われます。 私も本当は、そう思っていますね。
◆毎週1回、親子ミーティングを徹底
――事業継承の準備として、どのようなことをしていますか? 長男にとって、会長は父親、社長は叔父。 こっちは言いたいことを言いますが、息子は言いにくくて黙っていることもきっとあるでしょう。 それで毎週必ずコミュニケーションを取る時間を設け、認識のずれを修正する作業を徹底して続けています。 分かっているようで、ちゃんと話さないと分からないことも結構あります。 身内であっても、やはりコミュニケーションが一番大事だと実感しています。 ――経営者として伝えたいことで、特に大事だと思うことは? 数字をちゃんと見ることです。 決算書を自分できちんと読む力が必要です。 経営者は、あれもこれもやらず社員に仕事を任せ、経営に専念するようにならないとだめだと思っています。 ――2025年には社長を引き継がれるそうですが、準備は進んでいますか? 昨年から、私と弟は提案だけして、決定権は長男に持たせています。 3人の経営態勢から、少しずつ私たちが抜けていく形にしていこうと。 株も弟と私で半々ずつ持っていましたが、全部長男に譲りました。 もし、長男に小さい時から「会社を継げ」と言っていたら、今のようにならなかったかもしれません。 自分で決めて入ってきたので、結果として一番いい承継の形になったように思います。