【特集】「夜間中学」で広がる学び直しの選択肢…多様な学びのニーズにどう応える? 岡山
KSB瀬戸内海放送
年齢や国籍を問わず、さまざまな事情で義務教育を十分に受けられなかった人たちの「学び直し」を支える「夜間中学」。大きく分けて民間が運営する「自主」と、地方自治体が設置する「公立」があります。 岡山県では長らく、「自主夜間中学」が活動を続けていますが、2025年4月には、岡山市が県内初の「公立夜間中学」を開設します。多様な学びのニーズにどう応えていくのか、現状を取材しました。 【写真】岡山自主夜間中学校
岡山自主夜間中学校は、ボランティアスタッフが週3回、無料で勉強を教えています。 現役の中学校教諭でもある城之内庸仁さんが7年前に立ち上げました。 生徒は、最初は20人ほどでしたが、今では300人を超えています。生徒の増加にともない、城之内さんらは、公立夜間中学の設置を求めて活動を続けてきました。 (岡山自主夜間中学校/城之内庸仁 代表) 「粘り強い取り組みによって徐々に認知度が上がり、公立夜間中学の設置も大きく後押しできたと思います」 2016年、「教育機会確保法」が成立したことをきっかけに、全国で公立夜間中学の開設が進み、現在は52校あります。 岡山市は2025年4月、「岡山後楽館中学校夜間学級」として、県内初となる公立夜間中学を開設します。 (岡山市教育委員会 就学課/目黒恭広 課長補佐) 「多様な生徒が在籍するという夜間中学の特徴を生かして、互いの立場や考え方を受け入れ、尊重し、ともに学びあえるような学校を目指していきたい」 「公立夜間中学」では、昼の中学校と同じように免許を持った教員が週に5日、9教科の授業を行い、すべての勉強が終われば中学校の卒業資格が得られます。 岡山市では現時点で10人前後の入学を見込んでいて、教育課程などの検討を進めています。今後、入学説明会や願書の受け付けなどを行います。 (岡山市教育委員会 就学課/目黒恭広 課長補佐) 「学び直したいというお気持ちで入学していただくので、勉強だけでなく学校生活というところもありますので、そういうところも含めて設置をする。教育委員会としてもサポートして今後の生活に役立つような形になれば」 岡山市の自宅で勉強に励む丸山良雄さん(80)。公立夜間中学への入学を希望しています。 (公立夜間中学への入学を希望/丸山良雄さん[80]) 「(勉強は)自分の財産、財産にできる。うれしい、うれしいね、本当にうれしい」 子どもの頃は家が貧しかったり学校でいじめを受けたりして、満足に勉強できませんでした。 2018年、丸山さんは読み書きを学びたいと当時、岡山駅前にあった岡山自主夜間中学校の教室を訪ねました。 (公立夜間中学への入学を希望/丸山良雄さん[80]) 「字は読めない、書けない、75歳のおじいちゃんが来ても教えてくださるんかと思ってな。勉強ができないことでものすごく損をしたし、人生を恨んだし、自分自身が嫌だと思ったことが何度もある」 (公立夜間中学への入学を希望/丸山良雄さん[80]) 「自分で言うのもおかしいけど、上達しだしたという感じがする。生きていることがものすごく楽しいんよ」 コロナ禍などを経て、今は自宅で独学を続けている丸山さん。自分の経験を作文にして若い人を勇気付けたいと話します。 (公立夜間中学への入学を希望/丸山良雄さん[80]) 「どんどんやりたい、勉強がやりたい、死ぬまで。これからずっと行きます。もう先生が『あなたは来なくてよろしい、死ぬときのお経の練習でもしていなさい』というまで私は行きます、ハハハ」 一方、「公立」と比べて自分のペースで学びやすい「自主」を選ぶ人もいます。 7年前から岡山自主夜間中学校に通う井上健司さん。小児糖尿病を患い、不登校のまま小・中学校を卒業しました。 その後、職を転々としましたが、20歳ごろから病気が悪化し、働けなくなりました。 (岡山自主夜間中学校 生徒/井上健司さん) 「3年生までしか行ってなくて、あとはもうずっと行ってなくて全然分からないです。今の自分が大嫌いで……全然勉強できないし、履歴書も書けないから……ちゃんと勉強して就職できたらいいな。人生をやり直す出発地点ですよね」 人工透析やリハビリを受けながら、読み書きを学んでいた井上さん。今は念願だった再就職を果たし、岡山自主夜間中学校では生徒会長を務めています。 (岡山自主夜間中学校 生徒/井上健司さん) 「仕事でも文字を書くことがあるので、不安になることがなくなった。ちょっとずつ成長していると思う。生きがいがあって、楽しい学校です」 井上さんは、週に3回の人工透析や訪問看護を受けていることなどから、「公立」に毎日通うのは難しいと考ています。 (岡山自主夜間中学校 生徒/井上健司さん) 「(公立は)いいなとは思ったんですけど、僕は病気で行けないから。行ったら楽しいだろうと思います」 岡山自主夜間中学校の城之内代表は、「公立」と「自主」が連携し合い、それぞれの特長を生かして多様なニーズに応えることが重要だと話します。 (岡山自主夜間中学校/城之内庸仁 代表) 「公立の夜間中学と自主の夜間中学は車の両輪のような形だと思っています。私たちは変わらず公立と自主のよさを伝え続けて、学びたい方がどちらでも行けるような状況を整えていきたい」 公立夜間中学について広く知ってもらおうと、岡山市は、駅の電光掲示板やSNSを活用したり、岡山市内の公民館にチラシを置いたりしています。 「自主」も「公立」も見えないニーズの掘り起こしが課題となっています。 (公立夜間中学への入学を希望/丸山良雄さん[80]) 「苦労した人ほど隠したがるんです。隠さないでほしい。悩んでいる人がいればどんどん来てほしい」 (岡山自主夜間中学校 生徒/井上健司さん) 「同じ状況で勉強している人が多いので、勇気を出して来てほしい」 岡山市は27日、岡山後楽館中学校で授業体験会を開きます。また、7月から3回、公立夜間中学の入学説明会を実施します。 問い合わせや申し込みは岡山市教育委員会就学課(086-803ー1588)へお願いします。
KSB瀬戸内海放送