家は無事でも…断水して1年「水が来ないから、集落はバラバラになってしまった」
[能登地震1年]<3>
土砂で埋まった国道の迂回(うかい)路を造る槌音(つちおと)が響く、石川県珠洲市真浦町。大きくえぐられた山肌など、生々しい傷痕が今もあちこちに残る。23世帯42人の住民は皆、町を離れた。多くの家は無事に見えるのに、だ。
「水が来ないから、集落はバラバラになってしまった」。ここで生まれ育った南逸郎さん(85)がもどかしそうに話す。
自宅は元日の地震でも棟瓦が少し壊れた程度で、住むには支障ない。しかし、水が出ない。1972年度稼働の清水浄水場は復旧せず、地域一帯は断水して1年になる。
南さんは、地震後は自宅に残り、約2・5キロ離れた場所へ車で水をくみに行く生活を送っていた。市は清水浄水場の早期復旧を諦め、輪島市から総延長約1・8キロの配水管を真浦町までつなぐ工事を8月に開始。9月末には、水道が復旧するはずだった。
しかし、工事完了を目前に大雨災害が発生。道路沿いの歩道の下に配水管を埋設する予定だったが、大量の土砂に覆われてしまった。市の担当者は「来年の春までには断水をどうにかしたいが、計画があるわけではない」とする。
地震以降通行止めだった珠洲市の市街地に向かう国道は、迂回路によって年内にも開通するが、住民の帰還にはつながりそうもない。南さんも大雨災害後に市内の応急仮設住宅に入った。「水道が復旧すれば戻るという住民もいるのだが」と南さん。年明けにも地区の存続について住民同士で話し合う予定という。
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国土交通省などによると、能登半島地震による断水は県内で最大11万戸。水道管路被害率(水道管1キロ・メートルあたりの被害箇所数の割合)は輪島市1・60、珠洲市1・54で、熊本地震の熊本市の0・03を大きく上回る。
下水道の被害も深刻で、珠洲市では下水道管の7割が被災した。断水の長期化は衛生面や生活環境の悪化を招き、誤嚥(ごえん)性肺炎などの災害関連死につながるケースもあった。