『虎に翼』でハ・ヨンスが好演する朝鮮半島からの留学生、崔香淑が示したもの。紡がれた「加害」の歴史
NHK連続テレビ小説『虎に翼』が、いよいよ9月27日に最終回を迎える。伊藤沙莉演じる主人公・寅子が女性として法曹の道を切り拓いていく姿が描かれたが、物語を通して、寅子が明律大学女子部でともに法律を学んだ同級生たちの「その後」も丁寧に描かれた。 【画像】『虎に翼』より そのうちの一人がハ・ヨンスが演じる朝鮮半島からの留学生、崔香淑(さい こうしゅく / チェ・ヒャンスク)だ。同級生から「ヒャンちゃん」と呼ばれ親しまれた香淑だが、第二次世界大戦へと進む日本で学ぶ過程でさまざまな困難に直面し、一時は弁護士の夢をあきらめた。その後は日本人と結婚し、日本名を名乗るようになる。 崔香淑という人物の存在から垣間見えるのは、植民地支配など、戦時中の日本の「加害」の歴史だ。ドラマが示したものは何だったのか、本作で朝鮮学生、朝鮮文化考証を担当し、近代朝鮮教育史を専門に研究する大阪産業大学の崔誠姫(チェ・ソンヒ)さんにインタビューで聞いた。
朝鮮半島からの留学生は約8,000人。ほとんどが男子学生だった
―先生は朝鮮文化考証として、本作にどのように関わられたのでしょうか 崔誠姫(以下、崔):最初にお話をいただいたとき、『虎に翼』のおおよそのコンセプトと、朝鮮半島からの留学生を寅子の学友として登場させると聞きました。考証を引き受けることになったんですが、NHKのスタッフさんは事前にすごく調べてこられるので、私が一から調べるということはあまりなく、調べてきてくださったことに対して私が裏付けをするようなケースが多かったです。 たとえば、第18週ごろに描かれた金兄弟の事件に登場する手紙の内容などをスタッフの方と一緒に考えるようなかたちで関わりました。 戦後になると、香淑は複雑な状況に置かれた立場になって再登場します。Xでは香淑の国籍に関して誤った認識のコメントが投稿されることもあったんですが、GHQの方針や日本政府の通達を根拠にすると、内地(※編集部注……日本の本土のこと)の人と戦前に結婚している外地(※編集部注……朝鮮半島や台湾など、本土以外の日本領土のこと)出身の人は、内地の戸籍に入っているので、終戦後もそのまま「日本人」でありつづけました。 それに基づくと、香淑は汐見香子という「日本人」として日本で暮らしつづけていたことになり、そしてそれには何の問題もありません。このように資料を確認して考証する作業にも関わりました。 ―香淑のように、朝鮮半島から本土に学びにくる学生は実際にどれくらいいたのでしょうか? 崔:寅子たちが大学女子部に通っていたのは1930年代ですが、1935年のデータでは、全体で7,292人の留学生がいました。そのうち男性は6,800人くらいです。 ―男性のほうが圧倒的に多いんですね。 崔:そうですね。そして、法律を学ぶ男子学生はたくさんいましたが、女子の学生は非常に珍しいケースだと思います。 女子で多かったのは、東京女子高等師範学校(お茶の水女子大学の前身)や奈良女子高等師範学校(奈良女子大の前身)への留学生です。当時、朝鮮半島には中等教員養成機関がなかったので、教員になるために日本に留学に来るということが選択肢の一つでした。次点が医師の養成です。 どれも朝鮮半島で学ぶことが難しく、男子でさえも留学することに高いハードルがありましたが、そのうえ女性が勉強するとなるともっとひどい状況だったと思います。