「またノッカーしよると?」七転び八起きの健大高崎・佐伯幸大には立ち上がる理由がある
昨秋の関東大会で準優勝し、今春の選抜出場を当確としている健大高崎(群馬)が5日、高崎市内の同校で今年初練習を行った。昨年の選抜で甲子園初優勝。チームテーマに「連覇」を掲げる青柳博文監督は「箱根駅伝では青山学院大さん、M―1グランプリでは令和ロマンさんが連覇しましたし、ウチも選抜連覇を目指します」と宣言した。 *** 記者は東北、関東のアマチュア野球を担当している。昨春は初の甲子園優勝を果たした健大高崎は群馬を代表する強豪校で、23年冬から数えて3カ月に1回はグラウンドに顔を出している。その度に裏方として見る顔がある。にっこり笑顔がトレードマークの外野手・佐伯幸大(2年)だ。外野手というが、彼が練習でプレーしている姿を見たことがない。記者が取材に来るタイミングでは必ずと言っていいほど故障離脱しており、練習試合での放送サポート役やノッカーを務める姿しか見たことがなかった。 新チームとなった昨秋の関東大会を取材。最大のサプライズは「あの」2年生・佐伯だった。何とサポート役でしか活躍を見たことがなかった佐伯が、背番号7を背負って健大高崎の4番を張っていた。2安打2打点した試合後には「重圧は感じるんですけど、その中でも凄く楽しいと思うことが多くて、笑いながら打席に入ることもその1つ。本当に純粋に野球が楽しい」と笑顔を輝かせていた。故障と戦い続けてきた男はワンプレー、ワンプレーをかみしめるように楽しんでいた。 年を越え、健大高崎の初練習を取材したこの日。佐伯は右足首の靭帯断裂で「故障組」にいた。今月中には復帰見込みで、リハビリを兼ねてノッカーを務めていた。またしても記者が来た時には裏方としてチームを支える立場に…右の長距離砲として指導陣の評価は高いだけに佐伯にとっては無念の冬だ。ただ、あまり悲壮感を持って声をかけることは得策ではないと記者6年目にもなれば知っている。福岡出身の記者は自然体を装い「またノッカーしようると?」と声をかけると、いつもの笑顔が返ってきた。 「やっぱりケガが多くて、他の人に置いていかれている感じはするんですけど自分なりにできることをやっています。復帰した後にしっかりと結果で出せるように頑張っていきたいです」と佐伯。高校に入って5度目の故障離脱という。それでも心が折れずに立ち上がる理由がある。昨春の選抜で5試合計22回無失点で優勝に導いたプロ注目左腕の佐藤龍月(りゅうが=2年)の存在だ。佐藤は小学時代にジャイアンツジュニア、中学時代に東京城南ボーイズで一緒にプレーした仲。佐藤は昨年8月に左肘内側側副じん帯再建術(通称トミー・ジョン手術)を受け、投手としての復帰は6月の予定。同じ故障の苦しみを知る友の存在があり「龍月がいるから頑張れる」と常に前を向いてきた。 復帰間近の大砲は「応援してくれた人のために恩返しのホームランを甲子園で打ちたい」と誓う。帽子の裏には強い意志をもって、どんな苦労や困難にもくじけないことを意味する「不撓不屈」から取って「不撓」と記している。選抜開幕は3月18日。ケガに苦しみ続けた男が聖地でフルスイングを見せてくれると信じている。(柳内 遼平)