韓国大統領捜査が迷走 拘束令状を裁判所に再請求も捜査当局の未熟さ露呈で高まる批判
【ソウル=桜井紀雄】韓国で「非常戒厳」を宣布した尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領を内乱首謀容疑で身柄拘束しようとして失敗した捜査機関「高位公職者犯罪捜査処(公捜処)」は拘束令状が期限を迎えた6日、裁判所に令状を再請求したと明らかにした。令状の再執行について警察に一任するとも発表。難しい身柄拘束の責任を警察に押し付けた形で、公捜処の捜査の未熟さに批判が高まっている。 公捜処は3日、尹氏の拘束令状執行に向けて合同捜査本部を組む警察の機動隊とともに捜査員を大統領公邸に向かわせたが、大統領警護処の要員約200人に阻まれ、その日の執行を断念した。 公捜処は、警察に令状執行を一任することについて「執行に対する警察の専門性や現場指揮の統一性を考慮した」と説明。一方で、尹氏を拘束した後の取り調べは公捜処が行うという都合のいい捜査方針を示した。 こうした方針を文書で突然、告げられた警察側は不快感をあらわにした。執行だけを警察に丸投げするやり方に「法的問題がある」と指摘した。今後の令状執行については「合同捜査本部」として行うとし、具体的な進め方を公捜処と協議していくとしている。 尹氏の取り調べを巡っては、戒厳を主導した金竜顕(キム・ヨンヒョン)前国防相を逮捕するなど、捜査で先行していた検察も行おうとしたものの、公捜処に譲った経緯がある。尹氏の弁護団は「公捜処に内乱罪を捜査する権限はない」と主張し、公捜処の出頭要請を拒み続けてきた。 革新系の文在寅(ムン・ジェイン)前政権は検察の力をそぐ検察改革に傾注した。文政権の源流となった盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領が検察の厳しい捜査で自殺に追い込まれたとみなしたことも背景にある。その結果、既存の捜査機関から独立して高官らの不正を捜査する機関として2021年に発足したのが公捜処だった。 ただ、捜査権を調整する過程で内乱罪での捜査権は警察が持つことになった。検事総長出身の尹氏の弁護団はこの点を突いて捜査をかわそうとしている。文政権時代に検察改革を進めた現野党の「共に民主党」は、尹氏への捜査の加速化を求めているものの、自分たちが手を加えた捜査権を巡る問題が捜査の足を引っ張っている現実がある。