【新連載】名店のパティシエが教える。モデル・松川星さんが学ぶ正しいフランス菓子 vol.1|「サヴァラン」
7月のお菓子。ラム酒とじゅわっとした食感がたまらない「サヴァラン」
7月のテーマは『サヴァラン』。リング状の生地にラム酒のシロップを染み込ませ、生クリームや果物を添えたフランス菓子です。第一回に「サヴァラン」を選んだ理由は、パティスリーやホテルなどが集結したスイーツの祭典「フランス パティスリーウィーク 2024」をはじめ、全国で「サヴァラン」をテーマに盛り上がっているため。島田シェフはサヴァランの製法は、フランスの食文化を象徴していると話します。島田シェフ 「サヴァランの『焼いた後の生地にシロップを浸す』製法は、フランス菓子のエッセンシャルな部分といえます。他の例を出せば、クロワッサンにシロップを浸したクロワッサン・アマンドやオペラというコーヒーシロップをビスキュイ*1にしみ込ませるお菓子など。フランス菓子において、こういった製法はよく見られます。 日本だとカステラやショートケーキのように焼いた生地をそのまま使う方が一般的なので、やはりそこはフランスとの違いだと思います。日本よりもフランスは乾燥した気候なので、そうした環境の違いも、スイーツに関係しているのではないでしょうか。」*1)ビスキュイとはスポンジ生地全体、または別立てで作られたスポンジ生地のことを指す
誕生と歴史。起源は「ババ」
誕生にかかわっているのが、同じくフランスの伝統菓子である『ババ』。ラム酒入りシロップに生地を浸した、サヴァランと縁深いスイーツです。島田シェフ 「サヴァランの起源は『ババ』にあります。18世紀にポーランドの王スタニスラスがフランス・ロレーヌ地方に亡命してきたところから始まります。かたくなったパン菓子(クグロフのようなもの)にお酒をかけて食べたら大変美味しく、それをヒントにお抱えのパティシエ・ストレーに考案させたと言われています。 その後『ババ』の名で各地に広まり、19世紀に活躍したパティシエ三兄弟の一人、オーギュスト・ジュリアンがババを参考に考案し、美食家のブリアン・サヴァランの名をつけて生まれたとされるお菓子がサヴァランです。フランスのどこにいっても見ることのできるクラシックなお菓子です」初めて「サヴァラン」を食べるという、松川星さん。感想を伺うと……。松川さん 「果物の甘さとアルコールのバランスが絶妙です…。生地はふんわりしていてやさしい甘さがあって、大人な味わいだけど、どこかほっとします」 「パティシエ・シマ」のサヴァランは、パイナップルとアプリコット、マンゴーを使った夏らしいサヴァラン。シロップでひたひたになったサヴァラン生地は、生クリームにもよく合うしっとり柔らかな口溶け。生クリームは後味がさわやかで、フルーツの濃厚な甘さにぴったりです。島田シェフ 「ババとサヴァランは似ていますが、僕の中ではドーナツ型でリング状に成型した生地に、生クリームを絞り、果物を飾ったものが『サヴァラン』です。ドーナツ型を使わないものがババ、というイメージです。生地自体も少し違って、サヴァランは型に流し込むので、ババよりも少し緩めの生地となっています。 果物は、ババだと生地に入れるサルタナレーズンが定番ですが、サヴァランは上に飾るフルーツが季節に合わせて変わったりもします。今回の夏のサヴァランは生クリームではなく、ココナッツのシャンティマスカルポーネ*2です。普通のシャンティよりも、マスカルポーネチーズを加えて使う店が最近は増えた印象がありますね。ねっとりした食感とやさしい酸味が出るので、お店でもよく使っています」*2)生クリームに砂糖を加えて泡立てた「シャンティ」にマスカルポーネチーズを合わせたクリーム