アメリカ軍にとって、日本は「国境が存在しない国」だった!…日本が渡してしまった「ヤバすぎる特権」
国境がない国、日本
さらに「旧安保条約・第1条」に書かれたもうひとつの重要なポイントは、そうしてアメリカが米軍を「配備する」ことを許された場所が、 「日本国内およびその周辺(in and about Japan)」 だったということです。 私も最初にこの条文を読んだときは、 「その周辺っていっても、国外のことまで日本が決める権利はないはずだけどな」 と不思議に思っていたのですが、第1章で見た「横田空域」について調べていくうちに、その本当の意味がわかりました。 たとえば日本の首都圏には、横田、座間、厚木、横須賀と、沖縄なみの巨大な米軍基地が、首都東京を取り囲むように四つも存在しています。 そしてそれらの基地の上空は、太平洋の洋上から「横田空域」によってすべて覆われています。 ですから米軍とその関係者は、日本政府からいっさいチェックを受けることなく、いつでも首都圏の米軍基地に降り立つことができるのです。 しかも到着後、米軍基地からフェンスの外に出て日本に「入国」するときも、日本側のチェックは一切ありません。なので、たとえば横田基地に到着した米軍関係者が軍用ヘリを使えば、東京のど真ん中にある六本木の軍事ヘリポートまで、わずか二十数分で飛んでいくことができるのです。 つまり米軍やその関係者にとって、日本は「国境が存在しない国」ということなのです。そして「旧安保条約・第1条」に書かれた「米軍を日本国内およびその周辺に配備する権利」とは、米軍が「日本の国境を越えて自由に軍事行動できる権利」という意味だったのです!
憲法9条が見逃しているもの
それがどれだけ異常な特権であるかに気づいたのは、2003年に勃発したイラク戦争の後、アメリカとイラクがむすんだ「イラク・アメリカ地位協定」(2008年)の条文を読んでいたときのことでした。 2003年3月にアメリカと開戦したものの、ほとんど戦闘らしい戦闘もないまま、わずか1ヵ月で全土を占領されてしまったイラク。しかしそのイラクが敗戦後のアメリカとの交渉では素晴らしい粘り腰を発揮し、アメリカが提案してきた地位協定の草案に、なんと110ヵ所もの訂正を求めていたのです。 なかでも、もっとも大きな訂正のひとつが、 「イラクに駐留する米軍が、イラクの国境を越えて周辺国を攻撃することを禁じる」 という条文を、新たに加えたことでした。 この条文を読んだとき、まさに目からウロコが落ちるような思いがしたことをいまでもはっきりと覚えています。 「驚いたなあ。イラクはこんな条文をアメリカに認めさせたのか。でも、じゃあどうして憲法9条をもつ日本には、それができなかったんだろう」と。 ほかの国の軍事協定を読んでいるとよくわかるのですが、主権国家にとって「他国の軍隊が自国の国境を越えて移動する権利」というのは、なにより厳重にコントロールしなければならないものなのです。 戦争で一方的にボロ負けしたあと、崩壊した国家のなかでそうした「主権国家としての正論」をアメリカに堂々とぶつけ、しかも了承させたイラクの外交官たちに大きな拍手を送りたいと思います。 しかし同時に私たち日本人は、深く反省もしなければなりません。 こうしたイラクの地位協定を読むと、私自身も以前はあまり抵抗がなかった、 「憲法9条にノーベル平和賞を」 などという耳触りのいい主張が、いかに現実からかけ離れたものであるかが一瞬で理解できるからです。なにしろ、その憲法9条のもとで私たち日本人は、世界一戦争をよくする米軍に対して、 「国内に自由に基地を置く権利」と、 「そこから飛びたって、自由に国境を越えて他国を攻撃する権利」 を両方与えてしまっているのですから。