廃墟寸前の市場に行列ができる…ポツンと1軒だけ残る「親子の小さな食堂」が地元で50年間愛され続ける理由
その後、すぐにテレビや雑誌などのメディアに取り上げられ、千成亭は瞬く間に繁盛店になった。武さんが働いていたレストランの料理長からは「お前んとこの店、どないなことになってるんや!」と驚きの電話がかかってきたそうだ。 ただ、一気に注目されることで弊害もあった。メディアで「破格の値段でボリューム満点」と取り上げられることが多かったためか、客が「デカ盛りのお店」と勘違いして来店することが少なくなかったのだ。 「一般の人からしたら多いと思うんですけど、どんな方でもお腹いっぱいになって帰ってもらえるように、ご飯の量を選んでもらえるようにしてます。だから量をウリにしてるわけではないんです。もし多かったたらパックを用意しているので、持ち帰って食べてもらえたら料理人として光栄ですね」 ■「見た目もやけど、お父さんに似てるなって思う」 千成亭は、定休日(月曜・金曜)もお店を開けている。人気店になったことで、気軽に来られなくなった人、千秋さんとおしゃべりすることを楽しみにしていた人に来てもらうためだ。 取材を受けてくれた50年来の客・田代八重子さんもその一人。せっかく山を越えて自転車で来ているのに入りづらそうにしている姿を見て、千秋さんは胸を痛めていた。 そこで、武さんはなじみ客に、「持ち帰れるような惣菜などを用意しておくので、定休日にぜひ買いに来てください」と声をかけた。それ以降、田代さんは毎週月曜日、料理を買いにやって来る。千秋さんとたわいもない話をしながら。 筆者が「年中無休で大変じゃありませんか」と聞くと、武さんは笑顔でこう言った。 「仕込みをしている間だけですし、母もうれしそうだからいいんです。昔からここはそういう場所でしたから」 姉の祐里さんは武さんのことを「父に似てる」と話す。 「父も努力家やったけど、この子も相当やと思います。味を追求して、お客さんにどないかして出してあげたいって思ってる。若い学生さんが来ると、『自分へのご褒美で食べに来てるかもしれんし、ご飯多めに入れたって』って言うんです。そういうやりとりを見てると、見た目もやけど、お父さんに似てるなって思う」