廃墟寸前の市場に行列ができる…ポツンと1軒だけ残る「親子の小さな食堂」が地元で50年間愛され続ける理由
それだけでなく、父の味を守りながら今の時代に合うように改良。以前はかつとご飯の上に洋風のデミグラスソースをかけていたが、「ご飯と一緒に食べるなら、魚介のだしを加えた方が違和感がないはずだ」と考え、カツオ、昆布、サバ、アゴの出汁、味噌などを父が残したソースに加えた。このソースは大人から子どもの客まで「うまい!」と絶賛された。 また、かつは牛肉1枚を叩いて伸ばして揚げていたが、揚げた時にボリュームが出るように同じグラム数で2枚の肉を重ねて揚げることにした。かつめしが目の前に来た時に視覚でも堪能できるように、盛り付け方もこだわった。 こうして千成亭のかつめしは出来上がったのだが、この加古川のソウルフードを求めて、全国各地から人がやって来ることになろうとは、誰も想像もしていなかった。 ■YouTube動画で大行列、パンク寸前 2023年のある日、若い男性が「こんにちは」と店にやって来た。彼は地元グルメを紹介するYouTubeチャンネルを運営しており、「密着で撮影させてほしい」と相談を受けた。 千秋さんはYouTubeの存在を知らず、よくわからないという理由で最初は嫌がった。だが、武さんが「せっかく店に来てくれたし、やったらええやん」と言って撮影を許可した。その動画は千成亭の仕込みから開店して料理を作るところまでが丁寧にまとめられており、現在100万回ほど再生されている。 動画が公開された翌日の朝、開店準備を始めた武さんと千秋さんは目を見開いた。店の前に長蛇の列ができていたのだ。当時の状況を、武さんの姉・祐里さんが教えてくれた。 「市場の駐車場が『中古車センターか?』って思うほどいっぱいなんです。これはさすがに手伝いに行かなあかんと思って向かうと、暇だった店に突然人が来たので、厨房もテーブルもバタバタです。お客さんが落ち着くころには、お昼の営業を大幅に過ぎていました」