「史上最も労組寄り」バイデン氏の政治信条が背景か…USスチール買収禁止、将来の大統領選にも影響?
米国のバイデン大統領が日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画を禁止する命令を出したのは、民主党の支持基盤で高い集票力を持つ労働組合の意向を優先したためとの見方が多い。自らを「史上最も労組寄りの大統領」と呼ぶバイデン氏の政治信条も判断の背景にあるとみられる。 【写真】USスチールの工場(ペンシルベニア州ピッツバーグ郊外で)
2023年12月に日鉄が買収計画を発表した直後、全米鉄鋼労働組合(USW)は雇用不安や安全保障への悪影響を理由に反対を表明。これを受け、昨年の米大統領選では、労働組合の支持を得ようと、民主、共和両党の大統領候補が買収計画に懸念や反対を表明した。
大統領選では、共和党のトランプ前大統領がUSスチールの本社があるペンシルベニア州で勝利した。敗北した民主党とバイデン政権は将来の大統領選を見据え、全米で約85万人の組合員を抱えるUSWの支持をつなぎとめるために、買収計画を阻止する必要があると判断した可能性がある。
1901年創業のUSスチールは、かつて世界最大の鉄鋼メーカーとして産業を支えた米製造業の象徴的存在だ。日本企業による買収に対して、経済合理性を超えた抵抗感があった可能性は否めず、誰が大統領でも買収阻止以外の選択肢はなかったとの見方は強い。
もっとも、今回の決定は、同盟国からの投資を歓迎し、中国依存を減らすために同盟・友好国との供給網強化を重視するバイデン政権の理念に大きく矛盾するものだ。大統領選を経て米国で保護主義が一層強まる中、鉄鋼業界の大型再編の頓挫が日米の緊密な同盟関係や今後の投資戦略に暗い影を落としかねない。(ワシントン 田中宏幸)