ウルグアイ代表が本気になる理由
無人のスタジアムに迫力満点の衝突音とスペイン語、そして無邪気な歓声が響き渡った。来日したばかりのウルグアイ代表の初練習におけるひとコマ。衝突音は選手たちがボールを蹴る音であり、スペイン語はウルグアイの公用語であり、歓声はラテン・アメリカ特有の陽気なお国柄を物語っている。 日本代表戦が行われる宮城スタジアムのピッチに立ったのは、来日予定の19人のうち12人だけ。FWルイス・スアレス(リバプール)をはじめとする全員が、所属チームのあるヨーロッパの各都市から12日の午前中に成田空港へ到着。高速バスなどで東京駅へ向かい、東北新幹線を乗り継いで午後2時過ぎに慌ただしく仙台入りした。 [図]豊田ワントップ 日本代表予想フォーメーション
初練習が始まった午後6時半ごろには、W杯南アフリカ大会で得点王とMVPに輝き、ウルグアイ代表を40年ぶりのベスト4へ導いた立役者、FWディエゴ・フォルラン(インテルナシオナル)もブラジルから中東経由で来日。成田空港から東京駅へと向かっていた。 全員が揃うのは、試合前日の13日に合流する守護神フェルナンド・ムスレラ(ガラタサライ)を待たなければならない。日本の想像を絶する暑さと時差ぼけ、長距離移動による疲労の悪条件が選手たちを蝕み、なおかつ全体で練習できるのはたった一日しかない。 ヨーロッパから遠く離れた日本で国際親善試合が行われる場合、代表チームとは名ばかりで、来日してみれば飛車角落ちの二軍編成という場合が決して少なくない。各選手の所属チームが疲労を理由に招集拒否をほのめかし、協会側も親善試合ならば致し方ないと所属チームの本音を汲み取ることが多いからだ。 しかし、ウルグアイ代表のオスカル・タバレス監督は、4位に入った6月のコンフェデレーションズカップに出場したメンバーから16人を招集した。ナポリに在籍した昨シーズンにセリエAの得点王を獲得し、6400万ユーロ(約83億円)の移籍金でパリSGに加入したFWエディンソン・カバニは直前の故障で来日メンバーから外れたが、けが人を除けば現状におけるベストメンバーが編成された。 その意図はどこにあるのか。関係者によれば、ウルグアイ代表を率いて通算11年目を迎えている66歳のタバレス監督は、日本代表を「世界的にも指折りのいいチーム」と高く評価した上で、14日の親善試合をこう位置づけているという。 「いろいろな評価を(選手に)して、(チームを)修正するいい機会になる」 指揮官が発した「修正」という言葉には、ウルグアイ代表が危機に直面している現状が凝縮されている。現在進行中のW杯南米予選で、ウルグアイは5位に甘んじている。南米代表の座を自動的に得られるのは4位まで。5位のチームはアジア5位との大陸間プレーオフに回らざるを得なくなる。 しかも、ウルグアイは勝ち点16でベネズエラ代表と並び、得失点差でかろうじて上回っている。今後の結果次第では、大陸間プレーオフにすら回れずに予選で姿を消す事態もありうるわけだ。ウルグアイ代表の残り試合は4。日程は下記の通りとなっている(カッコ内は現在の順位)。 9月6日 [アウエー] vs ペルー代表(7位) 9月10日 [ホーム] vs コロンビア代表(2位) 10月11日[アウエー] vs エクアドル代表(3位) 10月15日[ホーム] vs アルゼンチン代表(1位) もはやひとつも星を落とせない状況下で、上位3チームと対戦しなければならない。しかも、前回の対戦でコロンビア代表に0対4、アルゼンチン代表には0対3で惨敗している。エクアドル代表戦が行われる敵地キトはアンデス山脈の中腹にある標高2850mの高地で、これまでも再三に渡って相手チームを苦しめてきた。ウルグアイ代表は断崖絶壁の窮地に立たされていると言っていい。