知らないと税務調査で指摘される…「不動産取得費」を調べるときの落とし穴【税理士が解説】
売買契約書を紛失してしまい「不動産の取得費」がわからない……。そんなとき、「市街地価格指数」などを用いた計算から割り出すことは可能です。しかし、一定の条件を知らずに計算してそのまま譲渡取得税を申告してしまうと、税務調査で不利に働く可能性が高まります。本記事では、税理士の伊藤俊一氏による著書『税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方』シリーズ(ぎょうせい)から、不明な取得費の調査方法ついて解説します。 世界主要国「消費税率」ランキング
不動産の譲渡所得税申告に係る取得費がわからない…
Q 不動産の譲渡所得税申告に係る取得費不明とそのエビデンスについて教えてください。 A 不動産関連と証拠資料というテーマでは必ず言及される論点です。証拠に係る検証を随時行いますが、実務ではさまざまな考え方、手法が錯綜する論点であり、これらについても適宜触れます。なお、本稿脱稿時点では原則として市街地価格指数は使ってはいけません。
不明な取得費を割り出す“計算方法”の落とし穴
昭和40年以降に取得した住宅地:概算取得費=「売却価格の5%」の使用は不利に 取得土地については、 ・住宅地はおおよそ昭和40年前後 ・商業地は昭和30年半ば前後 を目途に概算取得費、つまり売却価額の5%と市街地価格指数による取得費は逆転する傾向にあるといわれています。 昭和40年取得前は概算取得費有利、それ以降は市街地価格指数有利になります。当然、調査しなければ断定できないため、上記はおおよその目安です。 しかし、平成30年7月31日裁決等、近年の裁決事例等から勘案すると市街地価格指数による方法を当初申告においても利用すべきではないと考えられます。取得費不明の場合の現実的な対応方法は、各種ありますが、不動産鑑定士と協働すべきです。 〈長期譲渡所得の概算取得費控除〉 第31条の4 個人が昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地等又は建物等を譲渡した場合における長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費は、所得税法第38条及び第61条の規定にかかわらず、当該収入金額の100分の5に相当する金額とする。 ただし、当該金額がそれぞれ次の各号に掲げる金額に満たないことが証明された場合には、当該各号に掲げる金額とする。 一 その土地等の取得に要した金額と改良費の額との合計額 二 その建物等の取得に要した金額と設備費及び改良費の額との合計額 につき所得税法第38条第2項の規定を適用した場合に同項の規定により取得費とされる金額 ■租税特別措置法通達31の4-1(昭和28年以後に取得した資産についての適用) 31の4-1 措置法第31条の4第1項の規定は、昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地建物等の譲渡所得の金額の計算につき適用されるのであるが、昭和28年1月1日以後に取得した土地建物等の取得費についても、同項の規定に準じて計算して差し支えないものとする※1。 取得費は当初申告において契約書等添付は必要とされません。取得費が不明又は契約書等のエビデンスがない、そういった理由だけで、実際の取得日がおおよそ昭和40年以降の比較的新しい不動産についても、概算取得費を使うのは不利です。 こういった場合、当初申告で概算取得費を適用後に後日、実際の取得費が判明した場合、更正の請求は可能であったのが従来実務です。