ASEAN経済 高まる中国経済との連動性 米中対立で「漁夫の利」喪失も
■「人口ボーナス」期過ぎる ところで、ASEANをはじめとするアジア新興国の人口構成は若いという印象を持つ人が少なくないだろう。たしかに、域内で人口が最多のインドネシア(約2.7億人)や2位のフィリピン(約1.1億人)は若年層の比率が高く、中長期的に人口増が見込める(図)。 しかし、シンガポール、タイ、ベトナムは生産年齢人口の増加が経済成長を促すと期待される「人口ボーナス」の時期が過ぎ、今後は人口構成の変化が潜在成長率の低下を招くと予想されている。さらに、新興国においても都市化部を中心として少子高齢化が進んでいる。コロナ禍を経てそうした動きに拍車がかかった国もある。 世界銀行のデータによれば、マレーシアの1人当たりの国内総生産(GDP)は11年に1万ドルを超えた後、22年は1万1933ドルにとどまった。価格競争力の低下が経済成長の足かせとなる「中所得国のわな」に陥っていると見られる。他のASEAN加盟国は相対的な価格競争力の高さが経済成長を促す余地は残る。しかし、中国企業の投資を受け入れた結果として製造業の基盤が失われ、若年層の雇用創出機会が低下すれば経済成長に悪影響が出るとも考えられる。 ASEANをはじめとするアジア新興国は世界経済の成長センターと呼ばれて久しい。しかし、世界経済が大きく変化する中、単純な図式を当てはめることが難しくなりつつあることに留意する必要があるだろう。 (西濱徹〈にしはま・とおる〉第一生命経済研究所主席エコノミスト)