ASEAN経済 高まる中国経済との連動性 米中対立で「漁夫の利」喪失も
中国企業も近年、国内の人件費などのコスト増に対応するため、ASEANに生産拠点の一部を移してきた。欧米との関係に不透明感が高まる中、ASEANシフトを一段と強める動きもある。 ASEANシフトの恩恵を最も受けたのは中国に隣接するベトナムだろう。米国向け輸出や対内直接投資の受け入れが拡大してきた。ただし、その実態は中国から1次加工品を輸入し、ベトナムで2次加工して対米輸出するという事実上の「迂回(うかい)輸出」の活発化だった。 事実、米国のベトナムからの貿易赤字が拡大したことを受け、トランプ前政権は18年にベトナムの鉄鋼製品やアルミ製品に輸入関税を課したほか、中国産原料を使用してベトナムで2次加工が施された耐食鋼と冷延鋼板を対象にアンチダンピング税や補助金相殺税を適用した。米国がベトナムを為替操作国に認定して制裁関税を発動する事態は免れたものの、米商務省はその後もASEANを経由した中国による迂回輸出を警戒する動きを見せる。激化する米中摩擦がASEANに思わぬ形で飛び火した。 今年11月の米大統領選に出馬するバイデン大統領もトランプ前大統領も対中強硬姿勢を隠さない。米企業が「フレンドショアリング」(友好国や同盟国へのサプライチェーンの再構築)や「ニアショアリング」(近隣国へのサプライチェーンの再構築)を図る中、中国企業はそれらの国々に投資を活発化している。米政府が中国企業の迂回輸出策に目を光らせていることから、ASEANが中国から直接投資を受け入れるハードルが高まる可能性も考えられる。 ASEANは主に製造業の直接投資を受け入れ、幅広い製造基盤を構築してきた。それが製造業の競争力を高める一助になってきたといえる。しかし、中国企業がASEANに建てた工場は、中国から輸入した部品を組み立てることに特化したものが多い。結果としてASEANの産業空洞化が加速すると危惧する見方もある。実際に製造業の基盤が失われれば、雇用の創出源としての製造業の存在感や内需の厚みが低下しかねない。