ASEAN経済 高まる中国経済との連動性 米中対立で「漁夫の利」喪失も
中国経済の低迷が東南アジアに暗い影を落とす。米中対立でASEAN経由の迂回輸出も難しくなる可能性がある。 ■輸出依存度が高いASEAN経済にダメージ 東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国の多くは、輸出依存度が相対的に高いという特徴がある。2000年代以降、財(モノ)の輸出先のうち中国向けが最大となり、中国経済との連動性が高まってきた。域内を訪れる外国人観光客に占める中国人の割合も高まっている。財とサービスの輸出がいずれも中国に依存する度合いを強めているといえる。 しかし、中国経済の低迷はASEAN経済の足かせとなってきた。中国経済は今、供給サイドをけん引役として底入れの動きがある一方、需要サイドは家計消費など内需の力強さに欠けるからだ。 中国政府が景気下支え策を強化しているにもかかわらず、若年層を中心とする雇用不安や供給過剰が続く不動産市場は極めて不透明な状況だ。家計消費などの内需がかつての勢いを取り戻せるかどうかの見通しは立ちにくい。一方、習近平指導部が主導する「新質生産力(新たな質の生産力)」といったスローガンが後押しする形で、外需への依存度を強める傾向がうかがえる。 欧米の一部が中国の供給過剰を問題視して制裁関税を導入する動きは、世界経済の分断につながりかねない。結果として世界貿易に下押し圧力がかかれば、輸出依存度が高いASEAN経済のダメージは避けられない。また、中国人が財布のひもを締める中、旅行先を海外から国内にシフトする動きもある。ASEANは中国人観光客の購買力の恩恵を受けにくくなっている。 ■ベトナムの「迂回輸出」 ただ、中国の変化はASEAN加盟国の一部にプラスの影響も及ぼした。米中摩擦が激化したことで、欧米企業は中国に生産拠点を置くことのリスクを低減する「デリスキング」を目的として、サプライチェーン(供給網)の見直しを急いできた。地理的に中国と近く、政治が比較的安定しているASEANは中国に代わる生産拠点に選ばれやすい。いわば「漁夫の利」を受けると期待が高まっているのだ。