地方議員「なり手不足」は議員報酬アップだけで解決しない
総務省研究会の提案と現場からの評価
大川村のニュースを受けた国の対応は、異例とも言えるスピードでした。昨年7月には総務省が「町村議会のあり方に関する研究会」を設置。それから約9か月後の今年3月に報告書をまとめ、公開しました。 この報告書は大川村の動きに応える形で、町村総会について「実施は難しい」と結論すると同時に、既存の地方議会に対して「集中専門型」と「多数参加型」という2つのパッケージを、報告書の表現を借りると“多様な民意を反映させる機能”として提示しました。 しかし、もともとなり手がいない状態に屋上屋を重ねるような提案することに無理があるとも考えたようで、併せて「議会参画員」という制度も提案しています。これは、くじ引きなどの形で選ばれた住民(※議決権はない)が議会議員と議論を行う機会を設けることで、“住民が議会に関わる経験を得られる仕組み”とのことです。 この研究会の報告書に対して、地方自治の現場からの反応は芳しくありません。 全国町村議会議長会は「報告書に対する意見」を総務省の報告書と同じ日に発表しました。この意見書では、もともとの研究会が設置された趣旨である町村議会の可能性を探るべきであるとし、全国の取り組みや現行制度への現場からの要望が検討されていないことや、今回の対象を町村とのみしたこと、さらにパッケージの提案は、国から地方議会への「義務付け・枠付け」となって、これまでの地方分権改革に逆行するものとして批判的に評価しています。 同じく、全国市議会議長会も「コメント」を同日発表しました。このコメントでも、地方議会の現場を意見聴取していないこと、議会の自主性・自律性の拡大に逆行することを挙げて批判しています。 現在の地方議会制度の中で、まだまだやれることも改善すべきこともあるのに、総務省の報告書では脇道に逸れたパッケージになっており、本末転倒ではないかというわけです。
曖昧な「町村議会」に政府が見解
一方、地方自治に詳しい研究者らは、憲法で市町村に議会を置くことを定めているのに、町村総会が実現すると憲法違反になるのではないか? との疑問を持ちました。憲法では以下のように記述されています。 【日本国憲法】 ・第九十三条 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。 この条文での「議会」という単語に私たちは、いわゆる議場のある議会をイメージしてしまいます。一方、地方自治法には次のように記されています。 【地方自治法】 ・ 第八十九条 普通地方公共団体に議会を置く。 ・第九十四条 町村は、条例で、第八十九条の規定にかかわらず、議会を置かず、選挙権を有する者の総会を設けることができる。 ・第九十五条 前条の規定による町村総会に関しては、町村の議会に関する規定を準用する。 ここで町村総会という言葉が出てきます。第九十四条に“議会を置かず、選挙権を有する者の総会”とあり、これが町村総会に相当すると言えます。憲法は日本の法体系の最上位にあるので、地方自治法もそれに包含されて機能すると考えられますが、町村総会の位置づけについては「議会を置かず」とあるので、憲法にある「議会を設置する」という文言と齟齬(そご)があるようにも読めてしまい、スッキリしません。 そんな中で、今年の通常国会に質問趣意書が提出され、2月に回答が公開されました。これは「『町村総会』にかかる地方自治法の合憲性に関する質問主意書」とのタイトルで確認できます)。 政府の答弁は、“地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第九十四条の規定による町村総会は、憲法第九十三条第一項にいう「議事機関」としての「議会」に当たるものと考えている”というもので、「町村総会も議会に含まれる」ことを明確にしました。つまり、地方議会は今の形態が絶対的なものでなく、町村総会も含めて何らかの議事機関というものがあれば憲法違反にならない、というわけです。国会が憲法で一つの章(第4章)を割いて規定されていることに比べると、かなり自由度が高いと言えます。 地方自治における議会にはもっとクリエイティビティを発揮できる余地があることが国会のお墨付きで明らかになりました。