地方議員「なり手不足」は議員報酬アップだけで解決しない
コミュニケーションを住民基点で再構築
「低投票率は良くない。政治や地域への関心を高めましょう」との指摘は間違ってはいませんが、正解ではありません。70年以上前のクルマや家電が骨董品であるように、70年以上前の仕組みをそのまま21世紀に使って「不便だなぁ」と思わない方がおかしいのです。この「不便だなぁ」を解消する方法は、最先端とまでは行かなくとも、現在のITや分析、コミュニケーション技術を地方自治でのコミュニケーションに応用することにあります。 江戸時代、藩政の下に地域の生活単位としてあった地方自治は、明治、昭和、平成の度重なる大合併で、市町村の統合が進みました。それを主導したのは国です。平成の大合併の主目的に挙げられたのは、市町村などの基礎自治体の財政力の強化でした。併せて、モータリゼーションの進展に伴う生活圏の広域化に対応できることも示されていました。しかし、ここには「住民基点」の視点が大きく抜けていました。お金と自動車(モータリゼーション)のことは視野に入っていても、コミュニケーションは視野に入っていなかったのです。この過程を通じて住民不在の自治体が一層増えることになりました。 平成の大合併を推進した自民党の元衆院議員、故野中広務氏は「私は今になって、やや、やりすぎたかなと思っているのです。後悔しています。(中略)これはもう三位一体の改革など地方切り捨ての財政が進んだために、小さな市町村が自分たちだけでは生きていけない状態に追い込まれて、やむを得ず合併していくという姿にまでなってきたということです」との言を遺しています。 2018年現在、日本にある市町村の数は1718です。1999(平成11)年には、3229の自治体があったので、ほぼ半減(47%)しています。 行政におけるコミュニケーションの構造は古いまま、一つの自治体の面積は広くなり、議員の数は減り、選挙や調査が惰性で行われるなかで、住民の声が一層届きにくく、国からの要請や依頼による仕事を受ける形で運営できてしまう地方自治体が出来上がっていったのです。 この状態で地域の課題解決を目指す議員は、決して高くない報酬、調査費などの経費の援護もほとんどなく、落選した場合などに元の仕事に戻る制度も整わず、住民とのコミュニケーション環境も旧態依然という中で、孤立無援に近い状態に置かれてしまいます。 つまり、地方議員のなり手不足の問題は、議員のお金に関わる制度の見直しだけでは解決しないのです。日本の市町村、各自治体には多くの課題が山積していますが、そこに通底しているのは、地方自治におけるコミュニケーションの軽視であり、一方通行のコミュニケーションに慣れてしまった行政の思考停止です。 議員という住民の代表が本領を発揮できる環境と、地方自治におけるコミュニケーション環境を住民基点で再構築することが、議員のなり手不足の解消には不可欠です。 一例を挙げれば、住民と議会が市町村長の提示する政策課題に関わるデータやメリット・デメリットなどの情報を共有し、その情報に基づいて相互に意思表示を行うことで、地域の課題解決力を住民基点で継続的に向上させるといった仕組みが考えられます。 一見遠回りに見えても、前例にとらわれずに本来あるべき地方自治コミュニケーションをつくり出すことが、これからの地方議員のなり手を育む近道です。
----------------------------- ■岩田崇(いわた・たかし) 1973年1月生まれ。「オープンな合意形成によってこれらの社会に求められるイノベーションが実現する」との考えのもとに特許、メディア開発などを行う研究者、起業家。栃木県塩谷町では『塩谷町民全員会議』を開発、運営し、2016年マニフェスト大賞コミュニケーション最優秀賞を受賞。サイト