会社に壊されない生き方(4)小さな町に見つけた自分の大きな役割
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連日の終電帰り。ときに徹夜で頑張るが、仕事にやりがいが見いだせない会社員生活。「仕事とはそういうもの」と言い聞かせても、疲れが心身に蓄積していく ── 。イベントのプランナーとして、東京の過重労働の中で生きてきた矢口真紀さんは現在、郷里の埼玉県杉戸町に戻り、これまでのキャリアも活かしつつ女性の力を活用した町づくりに取り組む。会社員時代と比べて年収は1/3程度だが、今の暮らしには「大満足」という。小さな町に小さなビジネスを根付かせることで、自分の大きな役割を発見した。 会社に壊されない生き方(1) 会社に壊されるくらいなら会社をやめよう
月の平均残業時間は100~120時間
「『会社がなくなってたらいいなあ』と、六本木の職場に向かう朝の満員電車の中で考えていました。会社に行くのがおっくうでしたね」と会社員時代を振り返る矢口さん。大学卒業後、広告代理店など広告関連会社に勤務。プランナーとして、国内外の美術展や上海万博プロジェクトなど、アートやデザイン分野におけるイベントのプロデュースに従事した経歴を持つ。 会社からは、30代の独身女性が1人で生きるのにまず不足はないと言える収入を得ていたが、それは過重労働と引き換えだった。月の平均残業時間は100~120時間、休日出勤も珍しくなかった。仕事においても、クライアントが催すイベントの企画では、実際にイベントを訪れる客の顔が見えず、矢口さんとしては手応えを感じられなかった。「誰のための仕事なのか」などとむなしさも覚えた。 過重労働の中、仕事にやりがいを感じられない日々。だましだましやってきたが、未来を考えると怖くなってしまった。「このまま、この働き方を続ければ自分が嫌いになるし、壊れてしまう」。2012年、唐突に会社を辞めた。 矢口さんは、次を模索した。フィットする考え方を探して書籍などを通じた情報収集に明け暮れる日々を送る。地方で仕事を生み出す方法を学ぶ「地方で仕事を創る塾」への参加を契機に、郷里の杉戸町を盛り上げたいという思いが次第に強くなり、帰郷を決めた。 杉戸町は、埼玉県東部にある人口約4万6000人ほどの町で、かつては日光街道の宿場町だった。東京駅から約1時間強の距離で、都心のベッドタウンとしての顔を持つ一方、面積の約50%弱を田や畑が占める田園の町でもある。高齢化が進み、65歳以上の高齢者が増加する一方、15歳未満の若者は減少傾向にある。矢口さんは、自分たちの町を「ちょいなか」(ちょっと田舎)と表現する。 2014年4月に杉戸町へ戻った矢口さんはまず、地域の人が希望すれば誰でも店を出せるマルシェ(市場)のイベントを企画、開催したところ、数回の開催を経て、地元の商店からは出店があるのに対し、町に住む女性があまり出店していないと気づいた。 なぜ女性が参加に消極的なのか。中学時代の同級生や知人の女性に意見を聞くと、アクセサリー作りが得意だったり、会社で培ったキャリアを有するなど、ある程度の実力を備える人が少なからずいたが、彼女たちの大半は、「売り物にするほどじゃない」と自信のなさから二の足を踏んでいたとわかった。町に眠っていた「女子力」のポテンシャルに気づかされた矢口さんは、「月3万円ビジネス」を彼女たちに勧めようと考えた。