会社に壊されない生き方(4)小さな町に見つけた自分の大きな役割
他にも、ブレザーやネクタイといった思い出の衣類をハンチング帽やデディベアに仕立て直すなど、卒業生は様々なビジネスに取り組む。歌のトレーニング講座を開いていた卒業生は、『閉店したうどん屋をコミュニティーカフェとして活用したい』と考えていた元うどん店主に請われ、そのカフェでの講座が新たに実現するなど、地域とのつながりも生まれている。矢口さんは、「一人ひとりは小さな力ですが、地域に飛び出して広がれば、やがて町全体が少しずつ変わっていくのではないでしょうか」と卒業生の今後に期待する。
満員電車と縁が切れ、ストレスはほとんどなくなった
町づくりの仕事は、矢口さんの暮らしや考え方も変えた。 「会社員時代との労働時間の比較、ですか。半分くらいになったんでしょうかねえ、わかりません。楽しいと感じている時間も多いので」と話す矢口さん。おそらく労働時間も減ったろうし、働いている間の精神的な状態も大きく変わったのだろう。 会社員時代、仕事で感じたストレスは、同僚らと酒を飲みにいっては会社や上司の文句を言って発散するのが常だった。週末には、どこかに外出しないとやってられない気分になった。良い自動車に乗りたいとも思っていたし、「皆がこの商品を持っているから、自分も持たなければという感覚がありました」。 今は、「新しいチャレンジをしなければならないというプレッシャー自体は感じますが、ストレスはほとんどないですね」と笑う。この地にいることが楽しく、町づくりに応用できそうな事例が他の地域にあるならば見に行く程度。車も、安い値段で買った車に乗る。 満員電車とも縁が切れ、今は、家賃4万円という一軒家の自宅からほど近くにオフィスがある。町づくりは、会社員時代に比べて顔の見える仕事で、ともに仕事する仲間は家族同然、ランチをともにすることも多い。「自分が豊かな生活をしているという実感があります」と矢口さん。 かつて恐れた未来も「今は、未来が見えないからこそ楽しみです。地域をつなげている実感があり、『これで大丈夫』という確信が持てたので。チャレンジは必要ですが怖くはありません」と言い切った。町づくりは、矢口さんの『自分づくり』でもあるのだろう。 (取材・文:具志堅浩二)