【解説】就任式に習近平を招待したトランプの思惑、そして欠席表明した中国の狙い:米中対立に挟まる日本が持つべき視点
大統領選挙で勝利をおさめた共和党のドナルド・ジョン・トランプ前大統領は、2025年1月の大統領就任に向けて次期政権の人事・政策構想を準備している。だがその内容は、従来型アメリカ政治の「常識」を破壊するものであった。 まず人事面でみれば、主要閣僚、政府高官、主要国大使に起用される予定の人物のほとんどは、実務上の経験や能力でなく、トランプ個人に極度の忠誠を表明する熱烈な支持者、オポチュニスト、あるいは親族であった。 ドイツ元首相のアンゲラ・メルケル氏は、自著でトランプを評して「すべてを不動産企業家の視点で考える」人物とするが、トランプの組織運営思考とは、まさに個人企業「トランプ・オーガナイゼーション」のそれである。すなわち、絶対権力者の自らが中心軸となり、周囲を親族が固め、さらに従属・平伏する人物を経営幹部に登用し、多岐にわたる企業「帝国」を運営するものである。従って、上記の次期政権人事構想は、彼の思考をそのまま当てはめて理解すれば、まったく不自然なものではない。 だが指名されている人物の多くは、アメリカという巨大国家組織の運営に必要な実務上の経験や能力を欠いているどころか、トランプ個人の思考や願望を具現化するために選ばれている。彼らの多くは、国家組織の正常な運営どころか、指揮すべき組織自体を敵視し、不必要に攻撃するような者である。 特に外交・安全保障・諜報分野では、影響が深刻である。第一次トランプ政権での大統領と専門家の対立は深刻で、この経験は党派を超えたコミュニティに共有されており、適切な経験や知見を持つ専門家が次期政権に集う可能性は低い。
迷走が予想される対外政策と世界情勢
こうした状況下では、外交・安全保障の現実的なメカニズムに疎く、自己流解釈と感情に強く左右される大統領を支える集団が存在しないどころか、アメリカの骨格を支える巨大国家組織の運営自体が、停滞に見舞われる可能性が高い。それはアメリカの世界的影響力に一時的、あるいは最悪の場合は取り返しのつかない打撃を与え、各所に混乱をもたらすであろう。もっとも、これを好都合と捉え、積極的に利用しようとする勢力にとって、この事態は好ましいものとなるであろう。 その代表格がロシアである。個人的な好悪感情、特に相手国の最高指導者へのそれで国家間外交を行うトランプにとって、プーチンという専制的権威主義の権化とは、以前から親和性が高い。 ロシアはそこに付けこみ、トランプ新政権の4年間で、対ウクライナ侵略戦争で疲弊した外交的・軍事的ポジションを建て直し、次の侵略行動(ロシア側からみれば自らの勢力圏回復)の準備期間とするであろう。ゆえに北大西洋条約機構(NATO)のルッテ事務総長は「危機が全速力で我々に迫っている」(12月12日)と警告し、もはや欧州は戦時体制に移行しつつある。 一方で、最も「割を食う」可能性が高いのは、非白人国家で、すでに経済・安全保障の両面で対立関係にある中国である。2017年からの第一次トランプ政権下において、経済面では対中高関税や投資規制などの導入、外交・安全保障面ではインド太平洋へのシフト拡大といった形で、中国の台頭を直接的に抑止しようとした。 トランプは今回の大統領選挙でも対中強硬策を強く主張している。来年の政権成立以降は、米国内の混乱や自己矛盾を対外転嫁する目的も相まって、中国が明確な標的となることは、ほぼ間違いないであろう。