貴重な文化財、誰がどうやって修理しているの?「歴史を受け継ぎバトンを渡す」知られざる“国宝修理装こう師”の仕事に迫る【書評】
歴史的価値のある美術品、史料が展示されている催しがある。その展示物がどんな人たちの手によって維持されているのか、想像したことはあるだろうか。 【漫画】本編を読む
『国宝のお医者さん』(芳井アキ/KADOKAWA)は、知られざる“国宝修理装こう師”の仕事に焦点を当てたお仕事漫画である。 国立博物館の学芸員・押海。彼は展示の目玉である掛軸の修理を、腕の良い国宝修理装こう師・五條に依頼すれば箔がつくのでは…と算段していた。しかし五條にその依頼を断られてしまう。 押海が五條へ依頼したのは「名声がある職人だから」という理由からだった。しかし押海は五條の技術と信条に触れ、改めて真剣に修理を頼み込む。 作中で五條が手掛ける史料は市井の人々が所有する文化財が多い。ただ修理して終わりにせず、五條は持ち主が史料を維持するためにどう保存すれば良いかアドバイスを送る。遺品の文化財を手放す予定がある依頼主に対しては、手放すにしてもどういう想いを持って扱うべきかを説く。五條の文化財への敬意を示すあたたかい姿勢は、好感を抱かせる。 また、いくら腕があるといっても五條一人だけの力で修理の作業の全てが出来るわけではない。 水害で水浸しになってしまった史料の修復時は、押海の伝手で保存科学研究室のフリーズドライ技術を利用した。さらにその史料の汚れを落とすために、多くのボランティアの力が必要だった。 本作では国宝修理装こう師の技術の凄さだけを取り上げず、ひとりひとりが歴史を受け継ぎ、それぞれが次代にバトンを渡す担い手であるのだ、というメッセージを丁寧に描く。 「文化財は俺たち修理人が修理するからじゃなく 残そうとする人がいるから残るんだ」と五條は語る。「作品を残したい」と修理を依頼する人の意志がなければ、文化財は朽ちてしまうのだ。 そのことを踏まえて本作を読めば、現代の私たちが歴史的な美術品や史料を目にすることがいかに貴重なことか気づかされるだろう。遥か未来のために仕事を全うする国宝修理装こう師の姿に、敬意を表したい。 文=ネゴト / 花