気仙沼市南町ヴァンガードでコーヒーを
日本の東北海岸の港町気仙沼に、ヴァンガードという喫茶店がある。 気仙沼が、米東海岸の港町ニューヨーク並みにおしゃれな街であるかどうかは別として、旧市街八日町から南町の一番街商店街を歩くと、カトリック教会(と曹洞宗のお寺)に入る小路の角に立つ太陽堂時計店にほど近く、その店はある。
木の格子の自動ドアを開けて中に入ると、珈琲の香りが漂い、薄明るい店内は、午前中というのにずいぶんと賑わっている。入り口すぐのテーブル席には、遅い朝食をとっている客もいる。
東日本大震災のあとの街で、いち早く営業を再開した喫茶店のカウンターを占領しているのは、ジャズとコーヒーの好きな常連たち。気仙沼のおしゃれで粋なオーヴァー70の大人たちである。
午前のカウンターの常連たち
「昨日、車を洗ったど思ったっけ、夕べまだ雪なんだおんね。今朝んなったっけ溶けでまだ、泥っさ。」 「ば、なんと。」 「まず俺が車洗うど、いっつも雨んなってわがんねんだね。」 洗車したと思ったら、その晩、すぐ雪で、翌朝、またすぐ泥だらけになった、どうもいつもタイミングが悪いと、さる紳士がぼやいている。 「最近、車のナビが音声案内で、やれ車線変更しなさいどが、ここは何丁目何番地だどがせづねくて分がんねね。」と、隣の紳士。助手席の奥さんが、右だとか左だとか、危ないとか、頼んでもいないナビゲーター役を務めているみたいに、「こうるさい」ということである。
さらにその隣では、 「あれ、こないだバイパスのほうのマイヤが閉店して、鹿折のほうにあだらしぐできだようだけんと、おらいでわがんねがったんだね。ほんで元の場所にない、ありゃ、マイヤがないや、だったどがってっさ。大笑いっさ。」 と、奥さんがマイヤというスーパーマーケットの移転を知らなかったようで、「マイヤがないや」とだじゃれを飛ばして、大笑いだったと報告している。 他愛のない会話が続く。 と、思うと、 「最近、新宿・伊勢丹も客足は落ちているってね。デパートもスーパーももうダメだって。時代にそぐわなぐなってんだね。」 「いまの若い人だちは、苦労しねで、金儲けすっぺみだいなどごもあっと思うんだな。」 「小売業は難しいどごに来てんだね。」 など、ビジネスや社会情勢の情報交換の場ともなっている。 ヴァンガードの、朝9時過ぎのカウンターは常連客で占領されている。ひとめで、常連客とわかる風情である。 年のころはといえば、私よりも最低で10歳は年上、70歳以上の方々ということになる。 退職し、引退し、悠々自適の身であるひと、また、社長であったり、半ばは息子に引き継いで会長であったりしながら、現役の経営者であるひと。