気仙沼市南町ヴァンガードでコーヒーを
半世紀の南町ヴァンガード
カウンターの中には、白髪の勝った短髪のマスターが忙しく立ち働いている。居並ぶ常連たちのことは、まともに取り合うこともなく、放りっぱなし、のようにも見える。テーブル席にも客はいるので、トーストやら、ナポリタンやらを作り、あるいは、コーヒーのサイフォンの火を消すなど、注文をこなすのに集中しているだけではあるだろう。
店には、いつもジャズが流れている。50年も前に、ジャズ喫茶として開店した古い店である。当時、店内は薄暗く、奥の壁は一面の鏡張りで、大きな音量のジャズのレコードが流され、会話には向かない店であった。中学生には敷居の高い、大人の世代の店。大人とはいっても、20歳前後から30歳前の若者たちが集まるまぶしい場所。 ほぼ40年前に、珈琲専門店風に改装され、ジャズの音量も抑えられ、もう少し上の世代まで、会話が楽しめる店とはなっていた。時折、ジャズ・ミュージシャンがツアーにやってきて、ライブを行う。 時代の経過とともに、むしろ落ち着いた大人のための場所となった。今は、ジャズという音楽自体が、若者の世代のものとは言えなくなっている。 朝7時に開店すると、まずは、出勤前に必ず立ち寄る常連客が、朝のコーヒーを飲んでいく。ほど近い船着き場で降りた湾内に浮かぶ大島からの通勤者もいる。
昼時には、周辺の市役所、金融機関などの勤め人、リタイアした夫婦づれなど、カレーライスやナポリタン、あるいはハンバーグとライスにコーヒーのセットメニュー(500円、550円である。ちなみにコーヒーだけだと、260円。)を目当てに賑わうし、午後の休憩のあとの夕刻からは、その日の仕事を終えた近隣の店主や会社役員らが、夕食前のひと時を過ごし、あるいは、ビールやウィスキーを楽しみに集まってくる。昼時は、30歳代から50歳代が中心で、夕刻は、60歳前後が中心となる。太陽堂時計店の専務も、夕方の常連である。 マスターは、客の会話など無頓着に関心のない風に聞き流していたり、時折、気の向いたときに気の利いたひとことで口をはさんだり、時には、ニヤッと笑ったりする。