廃線を「自分で運転」してみた! “あの日のまま”の線路と列車で「は、速い!」「停まらない…!?」運転士が心底スゴいと思った件
「ガッタンゴー」で有名な“廃線”のもう一つの目玉「おくひだ号」運転体験
クルマと違い、誰もが運転できない鉄道車両。そのため、全国各地で行われている運転体験や廃線を活用した軌道自転車などは、人気のコンテンツとして地域の町おこしにつながっているケースもあります。 「神岡鉄道」もそのひとつで、廃線上を自転車で走る「ガッタンゴー」や、廃止前に活躍していた車両の運転ができることで知られています。 【懐かしい…けど超ムズイ!】「廃線を運転」する体験の一部始終を見る(写真33枚) 神岡鉄道は、1984(昭和59)年に国鉄神岡線を継承して発足した第三セクターの鉄道会社で、JR高山本線の猪谷駅(富山市)と、奥飛騨温泉口駅(岐阜県飛騨市、旧神岡町)のあいだ19.9kmを結んでいました。 2006(平成18)年の廃止後、地元の住民グループによって考案された「ガッタンゴー」が好評を博したことから、2016年には保存してあった神岡鉄道の気動車(ディーゼルカー)、KM-100形「おくひだ号」を復活運転させて大きな話題を呼びました。そして2020年からは、KM-100形の運転体験もスタートする運びとなったのです。 以前筆者は、ガッタンゴー(まちなかコース)に乗って線路上を移動する喜びを経験しました。そこで今度は、おくひだ号の運転体験にもチャレンジしてみることに。おくひだ号の運転体験にはいくつかメニューがありますが、今回はその中からベーシックな旧神岡鉱山前駅ー船岡トンネル間923mを往復できる定期開催運転を選びました。 このコースでは午前5組・午後5組まで枠があり、予約はインターネットで申し込みます。費用は1組2万5000円(税込)、同乗者は1人につき2000円で、参加者には、車内でサンドイッチとコーヒーのワゴンサービスも提供されます。 筆者は鉄道のシミュレーターは何度か行ったことがありますが、ほんものの車両の運転は初めて。期待と「ちゃんと運転できるかな」というドキドキを胸に、運転日の朝を迎えました。
心臓バクバク! でも運転前に色んな動作が必要!
集合場所は、旧神岡鉱山前駅です。駅入口には、数台が駐車できるスペースがありますが、入口右側のスペースでは、道路からのアプローチする角度が急な場所もあり、車高が低いクルマでは注意が必要です。 築堤の上に作られた旧神岡鉱山前駅は当時さながらに残されていますが、ホームへの通路・階段には電気がないので、ちょっとしたダンジョン気分です。運営団体の方や指導にあたる元神岡鉄道の運転士、そして運転体験参加者で集合して挨拶し、注意事項の伝達を受け、いざ「おくひだ号」KM-100形(101号)と対面します。 線路と同様、開業時・営業運転時の姿をそのままに留めるKM-101号は、僚機のKM-151号とともに1984(昭和59)年に新潟鐵工所で誕生。製造コストを抑えるために、多くの部品を国鉄キハ20形気動車から流用していました。車内には囲炉裏を模したサロンスペースが設けられているのが特徴です。 神岡鉄道では旅客輸送用にこの2両のみを所有し、101号は「おくひだ1号」、151号は「おくひだ2号」と名付けられていました。151号も動態保存されており、2両連結して運転体験に供されることもありますが、基本的には101号による単機運転が実施されます。 この日、筆者以外の参加者は、ここでの運転を2桁回数行っているベテランのみなさんで、一連の機器類の操作・運転技術を習熟していました。そしてついに筆者の順番がやってきました。手にはブレーキ弁ハンドルとレバーサーハンドルが持たされ、心臓はバクバクです。 運転体験は、単にマスコン(クルマでいうアクセル)、ブレーキを使って走らせるだけではありません。鉄道車両はクルマと違い前後に進むため、それに関連する機器や灯火類のスイッチ操作が必要です。 そのため運転台シートに座る前に、指導運転士による指示のもと、ブレーキ弁ハンドルのセット、使用する運転台を選択するスイッチの切り替え、エンジン出力の向きを変更する逆転機スイッチの切り替え、前照灯オン・標識灯(テールライト)オフ、などを行います。切り替えスイッチの操作には、前述のレバーサーハンドルを用います。そして、液体変速機(トルクコンバータ。クルマでいうオートマチック・トランスミッション)の切り替えレバーを、「変速」を意味する「変」に入れます。