カーボンニュートラル燃料でレースに挑むポルシェの賭け 「eフューエル」の製造工程
環境に配慮した燃料の作り方
今年のポルシェ・モービル1スーパーカップ(Porsche Mobil 1 Supercup)シリーズに参戦する車両は、「ほぼカーボンニュートラル」とされる燃料を使用する。 【写真】もはや「公道レーサー」なハイパフォーマンスモデル【ポルシェ911 GT3 RSを写真で見る】 (16枚) この「eフューエル」燃料はチリのハルオニ工場で製造され、風力発電による電解から再生可能水素を合成して作られる。製造に使用されるCO2はバイオマス由来のものだが、将来的には直接空気回収(DAC)技術を導入する予定だ。 モービル1スーパーカップ・シリーズは2021年から第2世代のバイオベースの部分合成燃料を使って開催されてきたが、今年のトライアルは完全合成の再生可能燃料としては初めての試みとなる。 市販モデルとは異なり、レーシングカーのECUは手作業でマッピングされる。ポルシェによれば再生可能燃料に適合するようにプログラムされているという。それ以外の機械的な改造は必要ない。 ポルシェはこの燃料を “ほぼ” カーボンニュートラルと表現しているが、厳密に言えば、輸送などによる二次的なCO2発生を除けば、燃料自体はカーボンニュートラルであるはずだ。では、どのようにして作られるのか? チリ南部のハルオニの地が選ばれた理由は、一年中強い風が安定して吹いているからである。風量発電所を置けば、欧州よりもはるかに多くの電力を生み出すことができる。3.4MWのタービンは、年間平均270日間フル稼働すると推定されている。発電した電力は、水を電気分解して再生可能水素を作るのに使われる。 水素とCO2は触媒上で高圧加熱され、メタノールが生成される。メタノールを蒸留して水分を36%から4%に減らした後、反応器に送り込み、メタノール中の炭素原子を結合させて長い炭化水素鎖を形成する。添加剤を混ぜ、オクタン価は98以上に引き上げられる。 フォルクスワーゲン・グループや他のパートナーとともに開発中のDAC技術は、まだ「概念実証」の段階にある。フォルクスワーゲンは5年前に、大気からCO2を回収することが商業的に可能であることを立証している。パートナー企業のHIFグローバルやMANエナジー・ソリューションズと協力して、その可能性を示そうとしている。DACプラントは、再生可能な電力源があればどこにでも設置できる。 ポルシェ・モービル1スーパーカップ・シリーズは、イモラを皮切りに、今年8つのF1サポート・レースとして開催される。32台のカップカーは、シーズン中に5万Lの再生可能燃料を消費すると予測されている。 これに対し、2022年に大規模生産を開始したハルオニ工場の年間最大生産量は13万リットルとなる。ポルシェは、需要がある限り2030年までに世界販売の80%を電気自動車(EV)とすることを目指しており、eフューエルはそれを補完するものと考えている。
執筆 AUTOCAR JAPAN編集部