「自分の中では及第点をあげたい」10年越しに惹かれたWリーグデビュー(トヨタ自動車アンテロープス 桂葵)
このチャレンジはおもしろそうかもしれない
2014年秋、代々木第二体育館で早稲田大学を日本一に導き、MVPを受賞。あれから10年が経ち、トヨタ自動車アンテロープスのルーキーとして、桂葵が同じコートでWリーグデビューを飾った。2024-25シーズン開幕戦、今シーズンより明確なホーム&アウェーとなり、この日の代々木第二体育館はENEOSサンフラワーズの黄色に染まる。大学3年次、2014年正月に行われた皇后杯で当時のJX-ENEOSと対戦しており、13点・11リバウンドと活躍。10年の月日を経た2024年10月11日、第2クォーター開始1分17秒に早くも出番が回ってきた。アウェーながらも異彩を放つ東京出身のルーキーに歓声が降り注いだ。 「(歓声は)聞こえていたけど、私は感情的になってしまうので、そこは気にしないようにしていました。努めて冷静に、あまり意識せず、目の前のマッチアップする(梅沢カディシャ)樹奈さんや(オコエ)桃仁花さん、(長岡)萌映子にリバウンドを取らせない、彼女たちより前に走る、それだけを考えてプレーしていました。ここがWリーグのコートなのか、代々木公園なのかも正直まだ分かっていない状況でした」 隣に広がる代々木公園内にある屋外バスケコートで、今年8月にはALLDAYに出場していただけにデジャヴ感は否めない。 桜花学園から早稲田大学と常に日本一を争う舞台に立って来た。長岡や、次節対戦する富士通レッドウェーブの町田瑠唯、宮澤夕貴とは世代別日本代表で一緒にプレーしてきた仲である。182cmの桂も、そのままWリーグへ進むものだと思っていた。「大学卒業時点ではいろんな違う世界を見てみたい、出会っていない人たちに出会いたい。人生一度きりだし ── みたいなことを思っていました。だから、Wリーグにもあまり惹かれませんでした」と大手企業へ就職し、大海に出る。完全にバスケから離れることなく解説者やモデルとして、異なるステージで見聞を広げていった。その後、東京オリンピックから正式種目となった3人制バスケ=3×3にチャレンジ。BEEFMAN、自ら発足したZOOSで国内はもとより、世界を舞台に活躍。現時点で世界ランキング61位、日本トップに君臨する桂は3×3シーンを切り拓いてきたひとりである。 会社員として、3×3プレーヤーとして、多くの人と出会い、さまざまな世界を見てきた。バスケを広めたい、上手くなりたいという気持ちを常に持ち、自ら行動に移してきた桂が、10年越しにWリーグに惹かれる。 「あらためてWリーグのバスケレベルの高さと、バスケに取り組める環境の素晴らしさに気づかされました。バスケをするには最高の環境です。32歳からWリーグでプレーすることを不思議に思う人もいるかもしれません。でも、バスケが上手くなりたいと思ったときに、1番の選択肢だと感じたからです」 3×3トップ選手であっても、自ら志願して簡単にWリーグ入りができるほど甘い世界ではない。桂自身もこの夏までは、「選択肢として考えたことは本当になかったです」と3×3に没頭してきた。そんなときである。大神雄子ヘッドコーチから「練習に参加してみないか?」と誘いを受けた。常に向上心を持ってバスケに打ち込む桂にとって、新たな刺激を受ける機会はありがたかった。練習から数日後、「トヨタに入らないか?」と大神ヘッドコーチ自らオファーする。「でも、そのときは『どんな冗談ですか?』みたいな感じだったんですよ」と言葉どおり受け取るには時間を要した。 半分がルーキーであり、シャンソン化粧品シャンソンVマジックから移籍してきた金田愛奈を含めて7人が新たに加わったトヨタ自動車は、「私も一ファンとしてどういうチームになるのか想像がつかなかったです」とワクワクする。「今年のトヨタのメンバーを見て、このチャレンジはおもしろそうかもしれない。このチームの一員になりたい」と好奇心が上回り、32歳のルーキーが誕生した。