日本と韓国は「#MeToo」運動でどう変わった? 女性の権利が向上、一方で激しい「バックラッシュ」も
「行動への批判はあっていいと思うが、攻撃や中傷では対話が成立しない。そこからは何も生まれない」。伊藤は、言葉に力を込めた。 ▽韓国:男性から巻き起こる「逆差別」の声 韓国でも2018年、女性検事が検察幹部の男性からセクハラを受けたことを公表し、「#MeToo運動」の先駆けとなった。女性検事は伊藤とも交流したが、こうした動きに触発されたのが、小説家のミン・ジヒョンだ。 韓国社会の男女観などをテーマにした2019年のデビュー作「僕の狂ったフェミ彼女」は話題となり、2022年には日本語版も発売された。ミンはこの年、伊藤の性被害が民事訴訟で認められたことで「つらいことでも勇気を持って告発すれば、社会を少しでも変えることができる」と、気持ちを新たにしたと振り返る。 ミンが韓国社会に見るのは「男女に関係なく、青年が生きづらさを抱えている社会の姿」。作品では、恋愛関係を軸に、女性の置かれている立場の弱さを描いたが、発表後に直面したのは、男性を中心としたフェミニズムへの攻撃だった。
韓国では、20代~30代の男性を中心に「フェミニスト」は相手をさげすむ言葉として用いられ、ショートヘアの女性をフェミニストと断定し、ネット上で攻撃するほか、暴力事件も起きている。 ミンは現状をこう推測している。「フェミニズムに対して若い男性の相当数が反発し、逆に女性からも同じくらい多くの支持があるのではないか」 性被害の告発について、ミンは「女性たちが我慢することで維持されてきた、偽りの安定を打ち破ること」と受け止める。女性の権利向上は、格差を生み出す社会構造の是正につながると考えるが、男性からは「逆差別だ」との声が絶えない。そこからは、社会に広がる男女の分断という現実が浮かび上がる。 ▽声を上げる 「#MeToo運動」が広がった後も、日韓は世界経済フォーラムの「男女格差報告」(ジェンダー・ギャップ指数)で100位以下にあるように、政治や経済分野を中心として女性の進出が遅れている。また、韓国では保守派を中心に、フェミニズムに対するバックラッシュ(反動)も深刻だ。