なぜオリックス・中嶋と阪神・岡田は歴史に残る名将になり、楽天・今江は解任されたのか…「チームを日本一にする」監督の”意外な条件”
令和の悲しき指揮官
長谷川:そんな岡田監督でも、完全には令和の選手の心をつかみきれなかったのかもしれません。スポーツ紙を通じて選手に苦言を呈する昭和のスタイルは緊張感を与える一方で、若手には受け入れられなかったのかも。 村瀬:最後に楽天の今江敏晃監督ですが、彼こそ「令和の悲しき指揮官」ですね。 長谷川:楽天は創立以来20年間で、1年で退任した監督が6人。異様です。 村瀬:「IT企業らしい」といえばいいのか、オーナーの三木谷浩史氏がせっかちですぐに結果を求めるタイプなのか、生半可な結果では許せないんでしょう。 今江監督はファンサービスにも注力していて、今年は観客動員もよかった。結果こそ4位で終わったものの、若い選手も育ってきていました。監督の最終戦のスピーチでも、その手応えが感じられて、来年も続投だと思ったのに、スピーチ翌々日に球団が解任を発表した。むごすぎます。 長谷川:今年は交流戦も優勝しているのにね。
初のAI監督誕生か
村瀬:私が思うに、三木谷さんは将来的に監督をAIにしようとしているのでは(笑)。1年で監督を交代させているのは、AI監督に様々なデータを食わせるためだとにらんでいます。 こうした非情な監督人事が続くと、楽天はもちろん、プロ野球界全体で「監督をやりたい」と思う人が少なくなってしまうのではないでしょうか。「ただ責任を取らされるだけなら、やりがいもクソもない」と感じてしまうおそれがあります。 長谷川:監督なんてやりたくない、と公言する元選手も増えています。昭和の時代、プロ野球の監督は男の夢のひとつでした。ところが今の時代に、監督を引き受けるのは貧乏くじに近い側面もある。一般企業でも、昇進して責任を負うことを嫌う社員が増えていますが、そうした空気が野球界にも流れてきているのかもしれません。 村瀬:ファンが監督に対して厳しい目を向けすぎているのも一因かもしれませんね。シーズン中、SNSでは監督への誹謗中傷ともいえるひどい言葉が溢れていましたから。 長谷川:令和気質の選手の引き締めに悩み、ファンの声に頭を痛めるなかで、結果を出し続けなければならない。監督とはなんと大変な職務か。だからこそ私たち野球ファンは、退任する監督に「プロ野球を楽しくしてくれて、ありがとう」と感謝の念を持たなければならないんですよ。 【さらに読む】『なぜ中日・立浪は「3年連続最下位」で終わり、西武・松井は「交流戦前の休養」に至ったのか…今季退任した監督たちの「強烈だった指導」「ヤバすぎる采配」』 はせがわ・しょういち/'70年、東京都生まれ。'03年に独立。近著に『海を渡る サムライたちの球跡』『プロ野球アウトロー列伝 異端の男たち』など むらせ・ひでのぶ/'75年、神奈川県生まれ。'00年よりライターとして活動。著書に『虎の血 阪神タイガース、謎の老人監督』など 「週刊現代」2024年10月26日・11月2日合併号より
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