じつは「突然、異形の生物が生まれる」ことではない…誰にでも起こっている「突然変異」という現象の「衝撃の実像」
「突然変異」はDNAに生じる
「突然変異」という言葉が使われる際、ときとして「ある生物Aが突然変異を起こして生物Bになった」というような言い方が散見される。かつてのゴジラ映画も、そんな文脈でこの怪獣の誕生の経緯が説明されてはいなかっただろうか。 これはおそらく、「突然」という言葉が含まれているがゆえに、その生物になんらかの変異が起こって、異なる形をした生物が“いきなり生まれる”のが突然変異だ、と誤解されているからだろう。 それと関連して、今後の高校生物の教科書では、突然変異という言葉から「突然」の語句が消され、単に「変異」という言葉に置き換えられていくことになっている。その理由には2つあり、第一に、先述の誤解を生みやすい表現を改めること、第二に、対応する英語「mutation」に合わせることである。 とはいえ、本稿は教科書ではないから、馴染みの深い「突然変異」という表現を、引き続き使っていくことにしよう。 そもそも「突然変異」とは、いったい何を指す言葉なのか。 先ほどの「ある生物Aが突然変異を起こして生物Bになった」という現象が現実には起こりそうにないのは、突然変異という言葉が「生物の形や大きさがいきなり変わってしまう」変化に対する言葉ではないからである。 突然変異とは「DNAに生じるもの」であり、DNAに生じるということは、別の言い方をすると「DNAの塩基配列が変わる」ということである。しかも、単に「変わる」だけではなく、「半永久的に変わる」現象であり、もはや元に戻らないことを意味している。 それが、「突然変異」なのである。 この突然変異、すなわち「塩基配列の変化」には、さまざまなタイプがあるが、最もひんぱんに起こると考えられている突然変異は、「置換」とよばれるタイプである。 「最もひんぱん」とはいうが、いったいどれくらいの頻度で起こるのか。そして、どうして起こるのだろうか。そして、DNAポリミラーゼの修復機能と、どう関係しているのか。少し詳しく見ていきたい。 * * * * * 次回は、突然変異=塩基配列の変化について、さらに詳しい解説をお送りします。 DNAとはなんだろう 「ほぼ正確」に遺伝情報をコピーする巧妙なからくり 果たしてほんとうに〈生物の設計図〉か? DNAの見方が変わる、極上の生命科学ミステリー! 世代をつなぐための最重要物質でありながら、細胞の内外でダイナミックなふるまいを見せるDNA。果たして、生命にとってDNAとはなんなのか?
武村 政春(東京理科大学教授・巨大ウイルス学・分子生物学)