介護も人や情報が頼りになる 他人事じゃない「高齢の親を虐待」しないための方法――「困ったときに吐き出せる場所があるか」がカギ
長期にわたる介護の末、介護者が配偶者や親、子どもをあやめてしまうという悲惨な事件が後を絶たない。 これまで1000人を超える患者を在宅で看取り、「最期は家で迎えたい」という患者の希望を在宅医として叶えてきた中村明澄医師(向日葵クリニック院長)の連載。今回は、家族が介護で追い詰められないためのコツや、制度の賢い使い方、ケアマネジャーとの付き合い方などについて紹介する。 【表でみる】認知症に伴う行動・心理症状6つ。怒りっぽくなる、頑固になる…などの症状が特徴 ■高齢者虐待の相談・通報は4万件弱
2024年11月、81歳の妻の首を絞めて殺害したとして、84歳の夫が警察に逮捕されるという痛ましい事件が、大手メディアなどで報道されました。 報道によれば、夫婦は二人暮らし。妻は要介護1の介護認定を受けており、デイサービスに通っていたものの、最近は家にいることが多かったようです。夫が自ら「妻をあやめてしまった」と110番通報したことで、事件が発覚したという経緯でした。 長年の介護の末、介護者が介護を受けている相手(配偶者や親、子ども)をあやめてしまうという事件は、悲しいことに後を絶ちません。
令和4年度の厚労省の調査によると、高齢者の世話をしている家族、親族、同居人などによる高齢者虐待について、相談・通報があった件数は約3万8000件、そのうち虐待と判断された件数は約1万7000件で、深刻な現状がうかがえます。 介護の負担で追い詰められた家族の支えとなるのが、周囲とのつながりや介護保険制度です。困ったときに、家族が自分たちで抱え込まず、周りに助けを求められるかどうかが大きなカギになります。
高齢になったら、ある程度自分から動いて周囲とのつながりを保とうとしないと、社会から孤立してしまうのは事実です。特にこれまで仕事中心の生活を送ってきた男性が、退職とともに属するコミュニティがなくなり、孤立してしまいがちなのは、よく語られることです。 それと同様に、長年、家のことは妻に任せっぱなしで仕事一筋だった男性ほど、介護においてもビジネス的に成果を求めてしまう傾向があるように感じます。 実際、私が担当した患者さんのご家族でも、「課題があれば、その解決のために動き、どれぐらい改善したのか(成果を上げたのか)報告するのが介護職の義務だ」と、PDCAサイクルを回そうとするがごとく、ご自分の主張を強く振りかざしていた男性がいました。