日清食品カップヌードルがブランド国内首位 奇抜CMに精緻な分析
カップヌードル PROや同ラクサのように、これまでにない特徴の商品を市場に投入した場合は市場に浸透するのに時間がかかる。その浸透を速める役割を担ったのがCM自体を話題にすることである。日清食品のバズらせるマーケティング戦略を以下の図に沿って確認しておこう。 まず起点となるのは同社が「空中戦」と呼ぶテレビCMの放映だ。主要購入層である若者が人に話したくなる要素を入れる。SNSではやったコンテンツがあれば徹底活用する。カップヌードル ラクサのCMでTikTokで広く使われた楽曲を取り入れたのは典型だ。 これを受けて「サイバー戦」が始まる。SNSでバズると、それをYahoo!ニュースやまとめサイトが取り上げる。こうした盛り上がりを見てテレビの情報番組が「ネットで話題だ」と取り上げて、ネットに敏感でない一般の消費者も商品への興味が誘発される。そして、テレビCMに合わせた商品デザインやPOP広告を店頭で目立たせる。「お客様が商品を店頭で購入するかどうかはわずか2~3秒で決まる。店頭で『あっ、これ買おう』とすぐ思ってもらえるように考え続けている」(日清食品マーケティング部の白澤勉部長) 同社はこれを、かめばかむほど面白さが拡散する「スルメサイクル」と呼んで実践し続けている。 このサイクルの中でSNSの存在感はますます増している。今、10~20代の女性の約6割は「タイムライン生活者」だという調査がある(博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所の森永真弓上席研究員らによる)。タイムライン生活者とは、スマホを手にするとまずSNSのタイムライン(フォローしているユーザーの投稿が一覧表示される画面)を見て新しい情報を探す人たちのこと。男性でも10~20代では3割以上がそうだという。彼らにとってはSNS上ではやっているものが話題になっているものであり、それが彼らの行動のきっかけになる。 楽曲や映えスポットがSNS起点で人気になるのはおなじみだが、今や商品購入もSNSでの流行が起点になるものが増えている。 ブランド・ジャパン企画委員である法政大学経営学部の西川英彦教授は「もはやSNSが市場そのもの。企業はSNSをメディアの一つと見ず、顧客とのコミュニケーションの基盤そのものとする戦略が不可欠だ」という。 ●SNSの流行にただ乗るだけでは逆効果 もちろん、SNSの流行を取り入れることは、他社でも進めている。日清食品が際立っているのは、その取り組みが粘り強く、かつ精緻であることだろう。 「商品には自信を持っているが、想定通りに売れないこともある。それでも、諦めない。試行錯誤しているうちに時代が変わることもあるし、パッケージなどの見せ方を変えることで消費者に届くこともある」(日清食品の白澤部長) カップ麺の主要ユーザーである若年層の生活スタイルが、SNSの浸透や新型コロナウイルス禍などを経て激変する中で、メディアへの打ち出し方をさまざま試してきた。「CMのアウトプットは奇抜でめちゃくちゃなものに見えるかもしれないが、実は裏で精緻に考え抜いている」(同) カップヌードル ラクサで女性層の開拓を狙った際も、他社と同様に通常の市場リサーチ、トレンド分析をしている。ただ、「市場の分析から出てくるのは過去の傾向であり、未来の市場はあくまでもマーケターとしての自分たちの感覚で生み出すもの」(同)と考える。 新しい市場を広げる上では、社員のマーケットを読む力を研ぎ澄ます社内の体制があることも強みになっている。 安藤徳隆社長が参加するマーケティング会議を毎週開催し、内容は社員に公開している。安藤社長と現場の社員が直接やり取りし、安藤社長が一般消費者の視点で一つひとつの提案についてなぜいいのか、なぜダメなのかを直接フィードバックしていく。時には入社1年にも満たない若手社員が社長と直接議論を戦わせる。この繰り返しにより、どういう発信をすれば消費者に届くのかというリアルな感覚が社内全員に浸透していくようになっている。 その感覚を生かし、SNSではやっているコンテンツをどう取り入れるかを考え抜く。 市場調査と同様、SNSではやっているコンテンツを単純に取り入れることはしない。なぜはやっているのかを要素分解して、ファンがそのコンテンツのどの部分を評価しているのか、心理を徹底的に読み解く。メーカー側の独りよがりで流行に乗っても、「日清は全然分かっていない」と思われたら逆効果になりかねないからだ。「自分では面白さが分からないことも正直言って多い。それでも、そのコンテンツのファンが面白いと言うなら、どこが面白いのかそのポイントが分かるまで徹底的に調査・分析して取り入れる」(白澤部長)。 押さえるべきポイントを理解した上で、社内で磨いた感覚を基に日清流のアレンジを加えて最後にひとひねりする。この繰り返しが「際立った個性がある」というブランド評価につながっている。
Kazuhito Ishihara