ニチガクだけじゃない! 学習塾倒産が過去最多のワケ…背景にSAPIXなど大手塾の寡占状態も
予備校のニチガクが年明けに破産したニュースが世間を騒がせている。だがニチガクの閉鎖は全国の学習塾にとって対岸の火事ではない。2024年1~10月の学習塾の倒産件数は過去最多水準で推移しているからだ。背景には少子化の影響と、SAPIXなど大手塾の一強状態も関係しているといわれている。学習塾の倒産の背景や、今後の動向を中学受験塾の経営コンサルタントの森上展安氏に聞いた。 【画像】受講生一人あたりの学習塾売上高
学習塾業界全体の売り上げは上昇も、小規模の倒産が深刻
経済産業省の第3次産業活動指数のデータによると、学習塾の受講生徒数は2014年から2018年まで増加傾向にあったが、2020年にはコロナ禍による外出自粛の影響で大幅に減少した。2021年には回復の兆しが見られたものの、少子化の影響が顕著となり、2023年には受講生徒数は再び減少に転じた。 中学受験塾経営コンサルタント・森上氏以下同 「2024年の高校入試では、入学定員と受験者数がほぼ同数となり、志望校を選ばなければ誰でも進学できるような状況になりました。そのため、受験に対するプレッシャーが軽減され、塾に通う生徒数の減少に拍車をかけています。加えて、塾講師の人材不足も倒産の要因となっています」 いっぽうで学習塾の売上高は堅調に推移しており、経済産業省の提供する特定サービス産業動態統計を見ると、学習塾の受講生一人あたりの売上高は2013年から2023年にかけて上昇傾向にあり、とくに2020年からの上昇が著しい。 売上が増加した背景には、コロナ禍でオンライン授業の選択肢が広がり、従来は通塾できなかった生徒も授業を受けられるようになったこと、また中学受験熱の高まりにより、集団指導塾に加えて個別指導塾を併用する生徒が増加していることなどが挙げられる。 2024年、学習塾の倒産件数は過去最多を記録したものの、その大半は1億円未満の小規模な倒産であり、売上は大手塾に集中している。大手塾では年間100万円以上の費用がかかることも珍しくはない。 このような状況下で独り勝ちといわれているのが、中学受験市場において圧倒的なシェアを誇るSAPIX小学部である。2024年度の中学入試では、開成262名、麻布182名、筑波大学附属駒場98名、桜蔭189名という合格実績を達成した。 難関校への安定した合格実績が知名度と信頼性を高め、入塾者増加につながっている。さらに、優秀な生徒が集まる環境では、自身の実力を的確に把握することができ、互いに切磋琢磨しながら学力を向上させることが期待できる。 SAPIX小学部はこのような好循環により、トップ層の集まる体制が継続的に維持されていると考えられる。 「難関校合格にはSAPIX小学部への通塾が必須というイメージが広く定着しています。ひと昔前の家庭に子どもが3人程度いる時代は、地域の口コミが重要な役割を果たしていましたが、現代ではSNSを通じて評判が拡散する時代となり、広告宣伝力の差が塾の経営を大きく左右します。 小規模な塾が太刀打ちすることは容易ではなく、少子化の影響で業界の縮小が予想されますが、SAPIX小学部は今後も安定した支持を獲得し続けそうです」 集団指導に加えて個別指導を受ける場合でも、系列の大手塾が選ばれる傾向にある。また、中学受験に合格した生徒の多くが、これまで通っていた系列の大手高校受験塾に入塾するのが主流だ。 同系列ではないが、SAPIX出身者が東京大学受験に特化した「鉄緑(てつりょく)会」へ入塾することは、受験エリートの王道コースになっていて、他の選択肢は生まれづらい。このような状況下では、大手塾と競合する小規模塾の存続は、今後も厳しい見通しとなるだろう。